あの事件から2日……優太たちは次なる町に到着した。

「ここが、勇者と呼ばれるものを育てる町、ブレイバルです」
「大きな町ですね……ラインハルトタウンとは、また違った感じですけど」
「ええ、ここは流れ者も辿り着く町ですから。 ……ところで、アヤネさん、ミハネさん、ユイコさん」
『はい?』

ルミナスは言う。

「路銀がつきました。  3人はアルバイトを探してください」
「……へ?」
「アルバイト、ですか?」
「どうして私たちなんですの?」
「……優太さんはこれから探してもらうものがありますので、仕事はできませんし、恭平さんはこの間のダメージが抜けていないので同じくだめです。
『うっ……。』

この間……3人の攻撃を受けた上に食事抜き。
あのダメージは予想以上だったらしく、いまだに恭平の体調は完全ではない。

「で、私は武術大会に参加します。  ……優勝できれば路銀には事欠かないでしょう」
「あ、なるほど」
「それで……優太さんには何を探してもらうんですか?」

優太に頼む探し物……それは……

「この町には勇者に隠されている特殊な力を見ることができるものがいると言います。 その人を探してください」
「人探しか……苦手な部類だが、やってみますか」
「お願いします。 あ、恭平さんは宿をお願いします」
「わかりました」

こうして6人は町の中に散った。



SUNNY-MOON

第11話 City



 「お待たせいたしました!」

町の酒場……彩音のバイト先はここらしい。

「こっちにビール3本!」
「あ、は〜い! 6番さんにビール3本です〜!」

白いフリフリのついたウェイトレスの仕事服を着て、彩音は店内を駆け回る。

「ごめんねぇ、君。  ……ところで用心棒も引き受けるって言ってたけど、本気かい?」

マスターが言う。
……酒場にはたいてい用心棒がいる。
いざこざが起きやすいので当然の処置なのだが、ここにはその用心棒がいない。
あまり儲かっていないのか、雇う余裕がなかったのだ。

「はい、まかせてください♪ で……追い出せばいいんですか? それとも捕まえるんですか?」
「相手によっては捕まえてくれ。 賞金首の場合は、賞金の半分をお前さんにやるよ」
「!? 本当ですか!?」

マスターも本気にしてないのか、適当な返事をする。

ドォォォォン!

……早速いざこざが起きたらしい。
殴られて吹き飛んだ男。
相手を見ると……

「あぁ!? なんだ、文句あるのか!?」

明らかに大きい男。
2m近くあるのではないだろうか。

「君……あいつは賞金首だ。 ……しかもここら一帯ではトップクラス。 ……いきなりだけど、できるかい?」
「はい♪」

そういうと、彩音は大男の前に歩いていく。
動じる気配は……まったくない。

「お、何だお嬢ちゃん、俺のファンか?」
「いいえ、ここの用心棒さんです♪」

ニコニコと話す彩音……その態度に相手も客も大笑い。

「ガハハハハ! こんなガキが用心棒か! マスター、頭大丈夫か!?」
「あはははは! 可愛い用心棒さんだ!」
「まったくだ!」
「可愛いなんて、そんな……ありがとうございます……と言うわけで……」

彩音は顔を伏せ、そして……

「覚悟はよろしいですか?」

ゴウッ!!

『!?』

突然彩音から発せられる本気の気配。
それを感じ取ったのか、相手も客も一瞬で黙ってしまう。

「ぐ……こんな小娘にっ!!」

……勇気を出して、殴りかかったのが運の尽き。

「はあっ!!」

スカートの中に手を入れた彩音……そこから出てきたのは……

「!?!? 棍だと!?」

そう。
彩音の身長とほぼ変わらないほどの長さの棍。

ブンッ! バキィッ!

その一撃は、確実の相手のあごを捉えた。

「が……っ……」

あっさりと床に倒れる男。

『………』
「……じゃあマスターさん、この人引き渡してきますね」
「あ、ああ……」

彩音のバイトは、ある意味順調だった……。





 「よかったわぁ、あなたみたいなスタイルのいい人、待ってたのよ」
「そ、そんなことないです……」

いきなりスタイルを誉められ、うろたえているのは水羽。
彩音のように実力があるわけでもなく、無難な仕事を選んだはずだったのだが……。

「では、まずは衣装の一覧です」
「はい……!? し、下着姿もあるんですか!?」

水羽のバイト先は服屋。
チラシの中のモデルになると言うもので、本人は嫌だったのだが……

“この際、職種は選んでいられませんわ。”

と言う由依子の言葉に押されてここに来たのだった。

「あなたのスタイルなら、十分絵になるわ」
「い、いえ、絵になるとかじゃなくて……」

恥ずかしい……それが水羽の考え。

「下着や水着をしてくれるなら、給料を2割増にするわ。 どう?」
「ぅ……やります……」

背に腹はかえられないのだった。





 「そうそう……もっと胸を張って」
「こう、ですか?」
「そうそう」

パシャッ! パシャッ!

精神力を使用してその場の映像を残す、という特殊な機械……ようはカメラで水羽を写していくお店の人。
今着ているのは緑のワンピース。
普段の水羽は滅多に着ない物である。

「次はこれね」

続いては白いブラウスに青のベスト……黄色のボタンがおしゃれだ。
下は青に白いラインが1本入ったキュロットスカート。
膝上5cmは余裕で超えている超ミニスカート……これまた水羽は普段着ない。
というより、水羽は滅多にスカートをはかない。

「うぅ、恥ずかしいかも……」
「何言ってるの、可愛いわよ。 はい、こっち」

そう言われ、前を向いて作り笑顔。

(こんな姿、恭ちゃんに見られたらどうしよう……。)

基本的に恭平の前ではおしゃれはしているつもりである。
滅多に身につけないスカートも、恭平が店に来た時にだけ、はいてみたりと頑張っているのだが……。
やはりスカートは苦手らしい。

「さ、次は水着よ〜」

水羽の苦難は続く……。





 ……そんな中、一際危ない橋を渡る者がいた。

「ツモ♪ メンタンツモ三暗ドラ3、倍満ですわね。 8000オールです♪」

……賭け麻雀。
ギャンブルなどは、確かに勝てれば破格のバイトとも言えなくもないが……。

「ぐ……この嬢ちゃん、強ぇぞ……!」
「イカサマやってる気配もないし……」
「ドラ引きの親倍……しかもダマ……何者だ……?」
「普通の女の子のつもりですよ?」

レートは結構高めのこの店。
元の世界の価値観に直すと、ここの金額は1000点はそのまま1000円である。
普通の人が入る場所ではない。

「続きだ……! 嬢ちゃん、もっとリスク背負う気はないか?」
「リスクですか?」

男の提案を、待ってましたといわんばかりに聞く由依子。

「レートを10倍にあげよう。 ……俺たちはタネ(元手)ありだが、嬢ちゃんは?」
「正直、今勝った分が限界ですわ。 場台しかなかったですから」

由依子は”稼ぎに”きているのだ。
元手などない。

「だろうな。 だから、俺たちが負けたら素直に金を支払う。 が……嬢ちゃんが負けた場合は……」
「……それは、私を好きにする、と言うことですか?」

男の意図が読めたのか、由依子は返す。

「察しがいいな。 正直嬢ちゃんは上玉だと思ってるからな。 高く見てやるよ」
「ありがとうございます……危ない橋を渡るのは得意ですよ?

由依子は危険な賭けに出ていた……。





 「はあああああっ!!」

ドガッ!!

「ぐわあっ!」
「そこまで! 勝者、ルミナス!」
『ワァァァァァァ!』


巻き起こる歓声……ルミナスは順調に勝ち進んでいく。

「ふぅ……皆さんは、ちゃんと稼げているでしょうか……」

賞金まではあと3勝、やってやれないことはない。
冷静なまま控え室に戻ると、ルミナスは優太との闘いを思い出していた。

「あの武器……カタナとか言いましたか」

刀の強さに、ルミナスは素直に感動していた。
そもそも盾を持たずに戦闘するのは日本ぐらいである。
日本が誇る刀には、盾など必要ないのだ。
刃の側面にある、鎬(しのぎ)と言われる部分を使って相手の刃を受け流す。
攻防一体となった武器、それが刀である。

「彼の力も尋常ではないし……恐ろしいものです」

考え事をしつつも、状況把握は忘れない。
次の出番へ向けて、ルミナスは闘技場へ向かう……。





「これで、予約も完了、と」

宿の予約を取った恭平は、とりあえず町を見て回ることにした。

「……本当、いろんな店があるんだな……。 ……はぁ……なんか、足手まといかな……」

ふと我に返り、自分を見つめ直してみる。
ここ最近の恭平は、確かにいいところがない。

「戦う力もなければ、大事な人を守れない……そんな世界なのにな……その力がない……」

恭平は自分を責めつづける。
……鋼糸を使うのは至難の技であり、恭平はその中でも使えるほうなのだが。

「僕には……頑張るしかないか……っ!」

ヒュンッ

とりあえず鋼糸を自由自在に使えるようにする特訓。
街の真ん中であるにもかかわらず、恭平は鋼糸で独楽をまわし始めた。
……これがルミナスに言われた特訓のひとつである。
5本ある、それぞれ太さの違う鋼糸……その上で独楽を回すのは、かなりの難易度を誇る。
すべての状況を鋼糸を通じて感じ、理解し、回転が足りなくなれば鋼糸で回す。
ずれて落ちそうになれば鋼糸を動かして常に芯の真下にあるように調節する。

ヒュンッ ヒュンッ

今度はその状態で、鋼糸が絡まらないようにしつつ、鋼糸を縦横無尽に動かす。

ギュルルルルッ

そして……5本の鋼糸で円を描き、その円を中心に向かって滑り降りる独楽。

シュルルルル……カンッ

滑り降りてきた独楽は中央付近でぶつかり合い、はじける。

シュッ パシッ

そして、その独楽を鋼糸で拾い、掌に落とす。

「……ふぅ……」
『ワァァァァ!!』
「!?!?」

気づくと辺りは人の山。
どうやら独楽と糸から、大道芸人だと思われたらしい。

チャリン チャリン

飛んでくるおひねりに唖然となる恭平だったが……アルバイトだと思い、そのお金を拾う。

「……あ、ありがとうございます」

……一石二鳥。





 そして、人探しをする優太。

「どうやって探すんだ? 名前もわからないんだが……」

辺りを見渡す……が、それらしい人は見当たらない。
というか、それらしい人、とはどんな人だろうか。
外見の予想すらできない優太にとって、この問題は困難を極めた。

「う〜ん……面倒……」
「きゃ〜〜〜〜〜〜っ!!」
「!?」

突然の叫び声。
優太は声のほうへ駆け出していた。

「胡散臭い占いしやがって……俺がモテないだと!?」

いきり立っている男……かなりの悪人顔。
挙句に攻撃的な性格、女性にも平気で手を上げるその行動。
モテる理由など一つもない。

「そ、そうじゃなくてですね……せめて、もっと柔らかく接するようにしないとみんな逃げていきます、と……」

女性の方は、肩までの青い髪。
身長は160cmあるだろうか……そして細身。
外見的な年齢で言えば15歳ぐらいだろうか。

「モテねぇって言ってるのと同じじゃねーか!」
「そうだな……せめて女を守る側ならまだしも、そっちに回ったらモテる可能性はだな」
「!?」

追いついた優太は、いきなり核心を突く言葉を吐く。

「誰だ!」
「そんなことはどうでもいいんだが……女に平気で手を出すんなら……容赦しないぜ?」

チャキッ

腰の刀に手を添える。
動けば斬る……その意味合いを込めた威圧だ。

「く……覚えてろ!」

尻尾を巻いて逃げる、とは正にこの事。
わき目も振らず一直線に男は消えていった。

「……ったく……」

優太はその場を立ち去ろうとする。
が、それはあることによって阻まれた。

「ありがとうございます〜〜!」

ぎゅっ

「!? いっ!?」

そう……先ほどの女の子に後ろから抱きつかれたのだ。

「お、おい、ちょっと!」
「あ……えっと、ごめんなさい、スノハラ=ユータさん……ですか?」
「!?」

抱きついた途端、何かを察したのか、少女は手を放す。
しかし、優太の名前を突然言い当てるなど、優太のほうは逆に不信感でいっぱいだ。

「……なんで、俺の名前を?」
「……待っていました。 私が、あなたの探している“勇者の力を探せる者”ブレイブサーチャーです」
「目的まで……」
「そして……今触れて確信しました。 どうやらその力を持っているのはあなたのようですね」
「なに?」

パァァァァ……

その言葉と同時に、優太の腕が光り輝く。

「!?」
「力を感じるでしょう? 湧き上がるような、白い光の力……」
「この……力は……?」

尋ねるまでもない……これこそが勇者の力の源、心の光。

「……もしかして……」
「はい、あなたが勇者です、ユータ様」

少女の言葉に、優太は戸惑うしかなかった。






彩音「更新遅いですよ〜!」

優太「まったくだ」

彩音「って、あれ? マスターは?」

優太「!! あいつ、逃げやがった!」

彩音「逃げないでください〜!」(追いかける)


次回予告

 見え始めた優太の力。
それを覚醒させるためには、洞窟の奥にあるクリスタルに触れなければならない。
……しかし、自称勇者の者たちは、優太たちを拒み、戦いを挑んでくる。

彩音「あれ……? 私、なんで……?」

彩音が感じる異変、それは、ただの気のせいなのだろうか。


第12話 Brave Soul


優太「今の俺に、退路はないみたいだな」