「俺が……勇者、だって?」
「はい」

少女ははっきりと言った。

「そんな馬鹿な話があるか。 俺は自分のいた世界からここに連れて来られて……」

もっともな話だ。
いきなり連れて来られて、“お前が勇者だ”と言われたところで、信じる者などいない。

「ユータ様がどのような事情なのかは存じませんが……でも、その白い光の力は、勇者の気質を表しています」
「これが……?」

右手の甲から発せられる白い光。
今までこのような光が見えたことは一度もなかった。

「ユータ様……お願いです……どうか……この、世界を……」

そう言うと、少女は床にひざまづく。

「その為なら……私、なんでも致しますから……どうか……どうか……っ!!」

土下座。
思いきり頭を地面にこすり付けての、土下座。

「ま、待った! そこまでしなくていい! わかった! わかったから!」

どうやら女に下手に出られるのは弱いらしい。

「よろしいの……ですか……?」
「よろしいも何も……このままじゃ、ずっとそのままいる気だろ?」
「では……」
「やれる限りのことはやってやるよ。 ……で、どうすればいいんだ?」

女に弱い……新たな弱点である。

「えと……何人ででもかまいません。 この町にある、“試練の洞窟”の最下層にある“覚醒の宝石(アウェイク・クリスタル)”を取ってきて欲しいんです」
「洞窟の? クリスタル?」
「はい。 あらゆる力を目覚めさせる能力があるクリスタルです。 これで、ユータ様の力を完全に覚醒させます」
「わかった……ええと……」

優太が悩んだ様子を見て、少女は察した。

「あっ、申し送れました、私、アターシャ=ウィル=ブレイバルといいます」
「……ブレイバル?」

どうやら、この国の皇女様らしい。



SUNNY-MOON

第12話 Brave Soul



 「ありがとうございました♪」
「いや、こちらこそ助かったよ、ありがとう」

バイトも終了し、賃金をいただき、彩音は頭を下げた。

「本当はずっといて欲しいぐらいなんだけどねぇ……」
「ごめんなさい……」
「いいや、いいよ。 本当に助かった。 賞金のおかげで、用心棒もきちんと雇えそうだ」
「よかったですね♪」
「ああ。 本当にありがとう」
「それでは、失礼します」

マスターに頭を下げ、彩音は店を……

ガンッ!

……振り向いた途端、思いきり柱に頭を打ち付ける。

「……じょ、嬢ちゃん……大丈夫かい?」
「……」

パタッ

「お、おいっ!」

……賞金首よりも柱のほうが強かったらしい。





 「ありがとう、いい写真が取れたわ」

水羽のバイト先……カメラを片手に店員さんが頭を下げる。

「いえ、こちらこそ、こんなに沢山……ありがとうございました」

チラシ用の写真撮影は終了したらしい。
水羽もまた、頭を下げる。

「いいのよ。 ……ところで、このチラシ、いる?」

水羽が載っているチラシ。
出来映えはどれほどのものだろうか。

「あ、はい、いただきます」
「後でゆっくり見るといいわ。 チラシじゃ物足りなくて、カタログにしちゃったから」
「カタログですか?」

水羽の写りのよさを気に入ったらしく、店員さんはそのままお店の商品カタログにしてしまったのだ。

「ええ。 それじゃ、ありがとうね」
「いえ、では、失礼します」

水羽もまた、店を出るのだった。

(チラシはもう街に撒いてあるんだけどね。)

店員さんの声は、水羽には聞こえなかった。





 「姉御〜!」
「待ってくだせぇ、姉御〜!」
「わしらの師匠になってくだせぇ、姉御〜!」
「姉御じゃないですわっ!」


怪しい掛け合いをしているのは、先ほどの麻雀の相手3人と由依子。
どうやら由依子の貞操(?)をかけた麻雀は、由依子の圧勝だったらしい。

「そんなこと言わないで、わしらに麻雀をもっと教えてくだせぇ!」
「教えるようなものでもありません、精進してください!」

(うぅ、こんなはずじゃなかったですのに……。)

『姉御〜!』
「えぇい、鬱陶しいですわっ!」

男3人に追いかけられる由依子。
……モテモテ?





 「せいっ!!」

ザシュッ!!

「くっ……ここまでか……降参だ……っ!!」
「そこまで! 今大会の優勝は、ルミナス選手!!」
『ワァァァァァァ!』


どうやら優勝したのはルミナスだったようだ。
他のみんなもアルバイトに成功しており、どうやら大金を掴めたようだ。

「あとは……みなさんの頑張り次第ですね」

そう言って、会場を後に……できるほど甘くない。

「ルミナス様〜♪」

ガバッ!

突然街の娘たちが抱きついてくる。
……ここでの優勝者は勇者として認められる。
勇者を歓迎するのは街の者として当然のことである。

「なっ……!?」

さしものルミナスも、女の子には弱いらしい。
うろたえるとともに、顔が一気に赤くなる。

「ウブなんですね、ルミナス様ぁ♪」
「うぐ……みなさん……あとは、頼みま……す……」

ガクッ

……優太の仲間たちは、敵以上に強い者に会うのが得意なようだ。






 「う〜ん……あ、これ……」

街を散歩する恭平が見つけたもの。
それは……

「う〜ん……」

白いカチューシャ。
そして、星の飾りがついたイヤリング。

「せっかくお金も入ったし……こっちは由依子に、こっちは水羽ちゃんに」

律儀と言うかなんと言うか。
こういう爽やか君だから周りから人気が出るということを、本人は全く自覚していない。
水羽にとっては嬉しくもあり、また、困る一面でもある。

「すみません、これください」
「あいよ。 毎度〜」

2つをそれぞれ包装してもらい、ご満悦。
更に街を見る。

「ん……?」

ヒラヒラ……

飛んでくる紙が一枚。
恭平は自分の顔に張りつく前に、それを取った。

「えと……あ、服屋のチラシか……って、水羽ちゃん!?

そう、そのチラシこそ、水羽の載っているチラシ。
恭平は普段見ない水羽の姿に、じ〜っと見入っている。

「こんな格好もするんだ……」

ピラッ

裏返す。
ただそれだけの、何気ない行動。

「ぶっ!?」

しかし、次の瞬間恭平は噴き出していた。

「な、え、水羽ちゃん……だよね……え?」

無理もない。
そこにあるのは水羽の下着姿
さしもの恭平も見たことはない。
……この間は裸を見て死にそうになっていたが。

「……」

ガサッ

無言でチラシをたたみ、ポケットに仕舞い、恭平は再び街を見始めた……。





 翌日。
6人は洞窟の前にいた。

「これが、私の家に伝わる石、夜光石です。 光を吸収し、暗いところで放つ性質があります。 洞窟の中はこれで進めると思います」
「ありがとな、えと、アターシャさん」
「アターシャでかまいませんよ、ユータ様」
「……様?」

ぴく、と、いつの間にか彩音の頭についていた猫耳が動く。
どうやら親しげに話す2人が気になるらしい。
乙女チックと言うかなんというか。

「……さ、さて、じゃ、行くか」
『ええ!』

意気込み十分。
いざ洞窟の中へ。

ザッ……

……しかし、それほど優しい人ばかり、と言うわけでもないらしい。
辺りには武器を持った男たちが……少なく見積もっても20人。

「……なんだ?」
「お前たちが勇者なんて、俺たちは認めねぇ!」
「そうだ! 俺が勇者なんだ!」

理不尽極まりない言葉だ。

「ちょ、ちょっとあなたたち!」
「皆さん、冷静に……」
「うるせぇ!」

水羽と由依子は何とか穏便に事を済ませようとするが、聞き耳を持たない。
そんな中、ルミナスは男としてこれ以上ない、わかりやすい答えを返した。

「なら証拠を見せてください! 通行手形代わりのこの夜光石、実力で奪ってください!」
「偉そうに……! 行くぜ!」

男たちがいっせいに押し寄せる。

「今の俺に、退路はないみたいだな」

ザシュッ!

「そこに隠れてる皆さんも、きたらどうです?」

ザンッ! ドガッ!

「っく……いくぜ!」

彩音の言葉に、隠れていた男たちが現れる。
その数は最初の人数を上回る。

「仕方ないわね……いくわよ!」

ドガァッ!!

「負けるわけには行きませんわ!」

ヒュパシィッ!! ザシュッ!

「僕たちは……負けられないっ!!」

ドガガガガガッ!!

6対50……圧倒的に不利な戦いながら、優太たちは敵を殲滅していく。

ドガッ!!

「ぐぁっ……!!」
「まだまだ!!」

ドカッ! バキッ! ドゴッ!

仰け反った相手に追い討ちをかけているのは彩音。
しかし……様子がおかしい。

「! おい、彩音! やりすぎだ! そいつ死んじまうぞ!」
「!?」

その言葉に、彩音は我に返る

「ぅ……ぁ……」

もはや虫の息の男。

「あれ……? 私、なんで……?」

まるで自分が何をしていたのかわからないような……そんな返答を返す彩音。

「っく……話は後だ! まずはこの戦いを終わらせろ!」
「は、はいっ!」

相手の攻撃をさばきながら。
自分の不安を払拭するかのように、彩音は戦いを再開した。






彩音「やっと更新ですね♪」

優太「やる気になったか」

SoU「新ネタを思いついたしね……この続編w」

優太「終わる前から続編かよ!」

彩音「うぅ、また私は不幸なんですか?(涙目」


次回予告

 洞窟の中は深く、暗い。
しかし、優太、彩音、ルミナスは慣れているのか、その闇をものともせず進む。

優太「ここが……“覚醒の水晶(アウェイク・クリスタル)”がある部屋か……」

しかし、それと引き換えに大切なものを失っていく者がいた。


第13話 Challenge


ルミナス「一体……何を……?」