「これに……触れば……」

自分が勇者であるかどうかをみる試験……その最終問題に、優太は直面していた。
これに触れて、勇者の力に目覚めることができれば……この世界から出ることも、夢ではない。
最後のボスを勇者が倒せばゲームは終わる。

(そうすれば……きっと、みんな帰れる……!)

他の仲間は、固唾を飲んで見守っている。
皆、優太と同じ気持ちなのだ。
これで優太が勇者でなければ、もとの世界に帰れる可能性は極端に少なくなる。
ルミナスだけは、本当に勇者の誕生を見守っていた。

「これで、力が目覚めれば……俺が勇者という証……」

が、優太が手を伸ばす際に、声をかける者がいた。

「優太さん……あの、私も、触っていいですか……?」

彩音だった。
どうしても気持ちが押さえられないのか、思わず声をかけてしまう。

「……ああ、じゃあ、先に触れよ」

それが、始まりだった。



SUNNY-MOON

第14話 Fallin' Down



 “覚醒の水晶(アウェイク・クリスタル)”……あらゆる者に眠る力を覚醒させるというこの水晶は、地下深くに封印されていた。
悪しき者を倒すために必須になるであろうこの水晶を封印しているのには訳がある。
もちろん、勇者は誰にでもなれるものではない……選考のためもある。
しかし、真の理由は……悪用されないため。
誰であろうと隠された力を覚醒させるこの水晶石は、心悪しき者が使えば大変なことになる。
世界を恐怖で覆い尽くすことも可能だ。
その為の封印なのだ。
……しかし、その封印が、ついに解かれてしまった。
よりにもよって、最も恐ろしい者の手によって……。





 (触りたい……これに……どうして……?)

はやる気持ちを押さえられない……彩音は手を伸ばす。

「あと、少し……」

ドクン ドクン……

あと数センチ……そして……

「届いた……っ!?」

カッ!!

“覚醒の水晶(アウェイク・クリスタル)”が光を放つ。
その光は美しく、神々しささえ覚える。

ドクン!

「!?!?」

(えっ……?)

身体の異変……それが始まり。
そして、彩音の表情が苦痛に変わる。

「う……うあっ……!?」

(な、何? 誰……?)

胸の奥から聞こえてくる声。
彩音はそれを押さえようと必死だった。

(解放したまえ……我を。)

低い、男の声。
その声を聞いただけで、頭が割れそうに痛む。

「嫌! 嫌、嫌ぁ!」
「彩音っ!?」
「彩音ちゃん!?」

異変に気づいた優太、恭平が声をかける。
しかし、すでにその声を聞く余裕はない。

(無駄だ……この心に潜んで1年……無意識のうちに我を押さえ込むとは思わなかったが……ようやく表に出られそうだ。)

「だめ……出ないで……! 私、まだ……何も、してない……っ!」

ドクンッ!!

「かはっ……!」

彩音の訴えを却下するかのように、心の声の主は彩音を蝕み、押さえ込んでいく。

「優太、さん……」
「彩音!」

ドクンッ!!

「!! ぐぅぅっ!! 私……わた、し……」

最後の抵抗。
しかし……

ドクンッ!!

最後の防壁……心が、崩れる……!

「!! ぅ……あ……っ!! いやああああああああああああああっ!!」

カッ!!

彩音の身体が輝く。

「うわっ!」

その眩しい光……そしてあふれる力の波動に、皆は弾き飛ばされてしまう。

「くぅ……っ!!」

まばゆい光がだんだんと暗くなっていく。
光が弱くなったのではない。
……光の色が黒に変わっていく……。





 「!? 遅かった……!?」

アターシャは感じた。
黒い力を……それも、これまでにないほど強大な力。

「あ……っ!! あぁ……そんな……この力は……魔王クラス……!?」

白き力にも、黒き力にも、レベルがある。
魔王クラス……それは、現存する悪しき力を持つものの中で最強の称号

「一体、なぜ……」

戦う力を持たないアターシャは、ただ、空から洞窟を眺めるしかできなかった……。





 光が、収まっていく。

「っく……!! 彩……音……?」

……そこにあるのは、彩音だった者の姿。
外見は彩音と違わない。
ただ、言うなら……背に黒い巨大な翼を持っていること、そして、漆黒のオーラを纏っていること。

「ようやく……表に出ることができた。 礼を言おう」
「彩音、ちゃん……?」
「いや……誰だ?」

由依子の言葉を打ち消すように、優太が言う。
この雰囲気……彩音のものではない。

「……我が名はウリエル。 神の下を追われた、元天使だ」

ウリエル……天使の中でも最上級とされる熾天使(セラフ)……その中でも強大な力を持つ、四大熾天使と呼ばれていた天使。
神の元を離れ、堕落した魔王クラスの堕天使
そのような魔物が彩音の中に潜んでいたと言うのだろうか。





 「!? ウリエル……!? そんな……」

地上世界でサポートを続けていた紅美は驚きを隠せない。
紅美は過去に天使に出会っている。
そのときの天使……美奈紀(みなき)、千早(ちはや)、シュウ、ユウイチ
彼らもかなりの力の持ち主だったが、その実力は大天使(アークエンジェル)……第2階級だと言う。
しかし、ウリエルは元熾天使……最上級にあたる第3隊第1位の実力を持つ者だ。

「ウリエル……確か、熾天使の名前だっけ? 地獄への道先案内人で、そのまま地獄に魅かれて堕落、堕天使になったっていう……」

「はい。 確か……美奈紀さんたちは大天使……その中でも優秀な方々だと聞きますから、権天使(プリンシバリティー)クラスの実力はあるものとして……」

「……あの人たちで第1隊第3位級か……化け物だね、これは……」

紅美も雄也も、眺めることしかできなかった……。





 「そういえば……お前が勇者だったな」

「! だとしたら何だって言うんだ!」

その言葉に、ウリエルは答えた。

「おめでとう、勇者一行……君たちが最初の犠牲者だ」
「! 来ますよっ!」
「く、来るって、相手は彩音だよ!?」
「中身は違っても……彩音ちゃんですわ……」
「でも……何とかしなきゃ……!」

ドンッ!!

勢いよく踏み込み、ウリエルが突貫してくる。
その早さは、全力の彩音や優太のそれをはるかに上回る。

「早いっ!?」

ブゥン……

ウリエルの右手に黒い光の剣が現れる。

ギィン!!

「くっ……!? なんて力だ!」
「ほぉ……能力を使えないこの空間に於いて……いかに我がこの肉体に縛られているとはいえ、この剣を受けるか……だが……」

ギュィィィィン……

「!?」

左手に蓄えられた黒い波動……

「ダークネスブリッド……」
「! まずいっ!!」

カッ!! ドォォォン!!


巨大な爆発。
垂直に黒い光の柱が出来上がる。
それは洞窟の屋根を貫き、地上にまで現れる。





 「!? 来るっ……!?」

ナターシャの眼前……その光の柱に弾き飛ばされたかのように、地上へと飛び出す身体が5つ。

ドサッ ドサッ

「!! ユータ様!?」

そして、その穴から飛び出してくる黒い力。

「ほぉ……まだ息はあるようだな」

全員無事なのか、5人がゆっくりと起きあがる。

「っく……彩音、ちゃん……!」
「その者は我が心の檻の中だ。 永遠にな」

バシュッ

「……え……」

ウリエルの指先から放たれた光……それは何の前触れもなく。
当たり前というように、由依子の胸をあっさりと貫いた。

「まず1人……」
『!! 由依子!!』

ドサッ

無言で由依子は倒れた。
起きあがる気配は……ない。

「ふっ……」

バシュッ バシュッ

無数の黒い光が放たれる。
それらは吸いこまれるように、水羽、恭平の身体を貫く。

「!? ぁ……」
「!! ぐ……ゆい、こ……水羽、ちゃん……」

ドサッ

まさしく絶対ともいえる実力差。
ここで……なんと、ルミナスは信じられない行動を取った。

「……私はあなたに従いましょう」

そう言って、剣をおさめたのだ。

「なっ!?」
「強き者に従う……それは当然でしょう?」
「……そうか。 まぁよい。 ならば貴様は我と共に来い。 その決意は嘘ではないようだからな」
「う……!」

愕然とする優太……そして、そこに。

「……忘れるところだったな。 後始末だ」

バシュッ

最後の光が、優太を貫いた。






紅美「この先どうなるんですか……?」

雄也「これじゃサポートなんて無理だと思うけど……」

SoU「次回をお楽しみに〜」

紅美「不安です……」


次回予告

 ウリエルはブレイバルを離れ、遥か遠い地に自らの城を作り上げる。
そこから迫り来るモンスターと、人間との戦争。

兵士「うわああああっ!!」

その戦争の中……全世界の希望が……勇者が、目覚める


第15話 Breakout


優太「俺は……勇者になんてなれない……」