……3日が経った。
今日は珍しく、ロングスカートをはいている。

(スカートも、なんとなくはきやすいかな……)

今までそんなことは思いもしなかったが……水羽はスカートに対する考えを改めつつあった。
相変わらずというか、水羽は街中を歩いている。
何をするでもなく、ただ、漠然と。
……が、そんな水羽も、最近ふと考えることがあった。

「……どうして……レオンはずっと1人だったのかな……」

家族はいない……が、それならそれで、村の誰かが引き取るなり、養護施設に入れるなりのことがあってもいいはずである。
しかし、それもない。

「案外薄情なのかな、この村の人たち……」

周りの皆は幸せそうな顔をしている。
今までの苦労を踏み台にして、幸せに上り詰めた者達だ。
その幸せも一入(ひとしお)だろう。

「レオン……でも、これからはお姉ちゃんがいるからね」

ガチャ

家に帰る。
……広間にはいないようだ。
水羽は少し休もうと、自分の部屋に……

「……? 物音? 気配?」

部屋から感じられる人の気配。
ごそごそ、と言う音がするところを見ると、何かを探しているようだ。

「……なるほど……」

わかりきったように、水羽はドアノブに手をかけた。

ガチャ

「こら! レオン!」
「うわぁっ!?」

正体は、やはりレオン。
水羽の予感的中である。

「へぇ……レオン、そんなに私の下着に興味があったんだ……」
「え、あ、そ、その……」

水羽のスタイルは確かに凄いものがある。
誰もの目をひきつけるには十分だ。
そして……そんな人と一緒に暮らしたら……お風呂、着替え……なんでも気になるのは確かだ。
しかし……いくら姉弟だといっても、甘やかす気はないらしい、

「レオン? 今日は覚悟するようにね……」

レオンの叫び声、そして泣き声が村の中に響いた……。



SUNNY-MOON

第17話 Only one



 「痛いよ〜……」

頬を押さえながら、涙目のレオン。
どうやら頬を叩かれたり、引っ張られたりしたらしい。
が、そんなレオンのことなど水羽は気にしない。

「よかったわね〜、それで済んで。 いつも痴漢は死に目に会ってるわよ」

半分事実だった。
腕を折られかけたものもいるほど、水羽の攻撃力は凄まじかった。

「う〜……」

拗ねる姿に、逆に心を躍らせているのは水羽。

(弟か……いると可愛いものね……)

思わず頬が緩む。
が……しかし、その時間も長くは続かなかった。

ドォォォォン!!

「!? な、なに!?」
「モンスターが来たぞ〜〜〜!!」

村の危機が迫っていた……・





 ドォォォン!! ドォォォン!!

ドアを開け、外に出ると……村人は手に槍や弓を持って、ただ1匹のモンスターと戦っていた。

「たぁぁぁぁっ!!」

ギィン!!

しかし、それらの武器はモンスターの身体に傷一つつけられない。
全身が石で出来たモンスター……ガーゴイルである。

「フハハハハハ!! ソンナモノ ガ キクト オモウカ!!」

ブンッ!! ドガッ!!

「ぐはぁっ!!」

村人が次々に弾き飛ばされていく。
幸い誰1人として死んではいないが、その圧倒的な防御力に、戦意を失いつつあった。

「……ホォ……ウリエル サマノ イウトオリ ダ……コンナ トコロ ニ レイ ノ コムスメ ガ イル トハ ナ……」

そう言い、ガーゴイルの目が水羽を捉える。

「え……?」
「キサマラ ノ ヨウナ ザントウ ヲ カル ノガ ワレワレ ノ ニンム ナノダ!」

次の瞬間、ガーゴイルは水羽に突っ込んできた。

「!?」
「!! 水羽お姉ちゃん!!」

ドンッ……ドガッ!!

「うわあああっ!!」

攻撃を受ける直前……レオンが水羽を突き飛ばしたのだ。
しかし……それは代わりにガーゴイルの攻撃を、レオンが受けてしまうことになる。

「!! レオン!!」

倒れたままの村人が多い中……レオンは再び立ち上がる。
足はふらつき……頭から血を流し……それでも、その目はガーゴイルを捉えて離さない。

「コゾウ!!」
「僕が……お姉ちゃんを守るんだ! やっと出来た家族を……守るんだ……っ!」

両手を広げ……水羽の前に立ちはだかるレオン。
10歳とは思えない……それはすでに、大人の貫禄があった。

「オロカモノ メ! ナラバ キサマ カラ コロシテ クレル!!」

ガーゴイルが再び向かってくる。

「ノコル ユイコ ト キョウヘイ モ コロシ ニ イカネバ ナラナイ カラ ナ! 」
「!?」

その言葉は、水羽に衝撃と、そして、感動をもたらした。

(由依子が……恭ちゃんが……生きてる……!?)

そして……蘇る想い。

(私は……2人を信じる……!! レオン……ありがとう……)

スッ……

レオンの前に、かばうようにして水羽が出る。

「!? 水羽お姉ちゃん!?」
「もう、大丈夫……ありがとう。 ……私、忘れてたの……確かに辛いことがあったかもしれない……でも、ここにいる人たちは、それを乗り越えて生きてる」

右の拳に、力を……。

「だから……私も自分を信じる!」

左手には、想いを……。

「シネ!!」

ガーゴイルがその爪を振り上げる。

「私は日高水羽よ! もう誰にも……自分にだって負けない!!」

瞬間、水羽は拳を突き出した。

バキィッ!!

「グハアッ!?」

石と同等の強度の肉体を持つガーゴイルが、仰け反る。

「はああああっ!!」

ドカバキドカバキッ!!

圧倒的な早さの乱撃。
よく見ると……動きが変なことがわかる。
左のアッパーがあごに当たり、振りぬいた直後……右の拳があごを捉える。
そのとき左手はすでに、腰の位置にある。
……“[獣]獣撃化(ビーストインストール)”、“[龍]龍撃化(ドラゴンインストール)”。
そして、それらの技の頂点に立つ能力。
水羽はそれを会得していた。
その名は“[連]連撃化(キングオブインストール)”
格闘ゲームに、”キャンセル”と言うテクニックがある。
攻撃のモーションをスキップして、いきなり次の技を出すというものである。
“[連]連撃化(キングオブインストール)”はまさしくそれ。
水羽の右アッパーがキャンセルされ、左アッパーにつながったのだ。
そのような攻撃を、かまわず続けていく。

「はああああああっ!!」

ドカバキドカバキッ!!

『すげぇ……。』
『頑張れ!』

村の人たちも応援している。
もはやかなうのは水羽だけなのだ。

「クッ!」

自慢の翼で何とか後方に回避したガーゴイルは、思わず上空に逃げ出す。

「逃がさない!」

ビリッ!!

ロングスカートを右から左へ斜めに破り、長い左側を縦に裂く。
そして、避けた両端を右足の膝のあたりで縛る。

「よし……!」

上空を見上げ……

「“[翼]天翼(エンジェリックウィング)”……!!」

バッ!!

純白の羽が、背中に現れる。
ヒラヒラと散った羽の中……水羽は輝いて見えた。

ドンッ!!

常人ではとても信じられない……そんな加速で空に向かっていく。
その姿は……まさしく天使。

「!? ナ、ナニ!? バカ ナ!!」

相手の声をよそに、両手に光が集まる。
……それはやがて、いくつもの炎の塊になる。

「“[轟]轟爆裂連弾(ダイナマイトレイヴ)”!!」

ドウッ!!

その炎の塊を、一斉に放る。
炎系最上級能力、“[轟]轟爆裂連弾(ダイナマイトレイヴ)”。
“[極]極大爆発(エクスプロード)”級の爆発を起こす火炎弾を、数十発連打するというとんでもない技である。

「グオオオオオッ!!」

ドォォォォォン!! ドォォォォォン!!

逃げながら、火の玉を避けていく……しかし、そう簡単によけられる数ではなく。
約半分が直撃していた。

「グゥゥッ……!!」

流石はウリエルに直接派遣されたモンスターと言うべきだろうか。
これだけの攻撃を受けて、それでもガーゴイルは生きていた。

「ココハ、ニゲル シカ ナイ……!!」

速度を上げ、雲の中に逃げ込もうとする。
流石に中に入られては、見つけることなど到底無理だ。

「……逃がさないって言ってるでしょ……っ!!」

右手に、再び巨大なエネルギー。
“[轟]轟爆裂連弾(ダイナマイトレイヴ)”のように、1つ1つに分散したエネルギーではない。

キュィィィン……!!

その光は、水羽の右手の中で、その身長を超える程の長さノ槍になる。

「いっけぇぇぇぇぇ!! “[海]海竜王槍(リヴァイヴァルランス)”ッ!!」

ドウッ!!

その手から放たれた槍。

キィィィィィン……ザシュッ シュパァァァァッ……

それは大気を裂き……半ば雲の中に入りかけていたガーゴイルを貫き……そして、辺り一面にあった雲をを、一瞬のうちに消し飛ばした。
その槍を中心に、雲に巨大な穴があく。

「グ……ガ……ッ!!」

ドォォォォォン!!

爆発。
ガーゴイルの最後である……。





「レオン、大丈夫だった?」

駆け寄った水羽。
しかし、そこで信じられない光景を見た。

「うん……大丈夫……ありがとう……僕の家族になってくれて……」

レオンの体が……半分透けていたのだ。

「……レオン、やっと……眠れるようだな」

村の人たちが駆け寄ってくる。

「? どういう意味ですか!?」

その言葉に、村長らしき老人が答えた。

「レオンは……15年前に死んでるんじゃよ……その子は、幽霊なんじゃ」
「えっ……?」

(レオンが……幽霊……?)

あたまが混乱し、落ちつかない水羽。

「わかってたんだ……お父さんもお母さんも、僕を捨てたんだって。 でも……僕は家族が欲しかったんだ……。 一度でいいから……一瞬でいいから……」
「レオン!?」

もうすでに、レオンの後ろの景色が見えるほどに薄くなっている。
水羽は涙を流しながら、レオンに呼びかける。

「ありがとう……水羽お姉ちゃん……もう、会えないかもしれないけど……でも……ずっと……家族で、いてもいいかな……?

もう限界なのだろう。
息も絶え絶えになって、それでもレオンは水羽に問い掛ける。
最期の最期……その後まで、いつまでも……家族でもいいのか、と。
……返事に、水羽は迷わなかった。

「もちろんよっ♪ レオンは……私の自慢の弟よ……」

力強く抱きしめる。

「えへ、へ……水羽お姉ちゃん……ありがとう……村の、皆も……ありがとう……」

その身体は一瞬光り輝いて……そして、光の粒になった。
粒は水羽の身体を取り巻き……

「……ぁ……」

ネックレスとなり、水羽の側に寄り添うように……輝き続ける。

「……レオン……一緒に行こうね」

最後に……もうすっかり晴れ渡った空に、そっとつぶやいた。






紅美「水羽さん完全復活♪」

雄也「一つ大きくなったんじゃないかな……心のほうも」

紅美「ですね。 自分だってに負けない、か……その気持ち、大事ですよね」

雄也「紅美が言うともっともらしく聞こえるな。 見習わないと」


次回予告

 水羽がいた大陸とは正反対に位置する、クランブルの町。
由依子はそこで助けられていた。
そして……それは、全ての始まり。

由依子「え、ぁ……何でもない、ですわ……えぇ、大丈夫です」

失っていったもの……そして、それと引き換えに手に入れたものとは……?


第18話 Stolen my heart


由依子「私も……水羽ちゃんの事、言えなくなってしまいましたわね……」