「流石というか……ずいぶんな吸収力ね……。 最初から剣2本持ってないと、攻めるの大変になってきたわよ」

あれからわずか2週間程度。
恭平の成長は著しかった。
今では訓練終了後に技術などを本で学ぶほど、身体的に余裕が出来ていた。

「そうでしょうか……実感が湧かないですね」
「それはそうよ。 でも、成長したわね……行く気なんでしょ? ブレイバルに」

もう一度勇者の町へ行く。
水羽たちはそこにいると、恭平は確信していた。
だから、その問いに迷わずうなずく。

「そっか……じゃ、それまでに強くならないとね、もっともっと。」
「はい。 また教わってもいいですか?」
「いいけどねぇ……時間、あんまりなさそうだから、荒療治でいこうと思って。」

ゆっくりしていると、ウリエル率いる軍団がブレイバルを襲うことになる。
確かに時間はない。

「ぇ……荒療治……ですか?」

途端に不安になる。
そもそもフィアとの訓練そのものが一般の者には拷問、恭平にでも十分荒療治なのだ。
フィア自身はそのことを軽い練習と言っているし、実際やっている訓練でさえ、汗一つかかない。
そのフィアを以ってして荒療治と言わしめるのだ。
どれ程の事かなど、想像出来るはずもない。

「そ、荒療治。 この町の中心に、大きな塔があったでしょ?」

町の中心に存在する、かなりの高さを誇る塔。
以前訊いた時には「10階建てで、町の象徴」と説明してくれた。

「ええ」
「そこが目的地。 名は久遠の塔。 知恵と勇気と技術を以ってのみ制することが出来る、最高峰の修行場よ」

ゴクン…

思わず息を呑む。
最高峰の修行場……フィアを以ってそう言わしめる場所。
恭平にとっては、もはや未知の空間である。

「決行は明日。 最上階まで上れとは言わないわ。 せめて6階までは行って頂戴。 そうでなければ、この修行は無意味なの。 行けなかった場合は、その後1週間修行して、再挑戦。 つまり、上れない度に1週間遅れる。 ……出来れば、明日で終わることを願うわ。」

明日。
これが無理なら1週間遅くなる。
2回も失敗すれば、ブレイバルに踏み入れる前に町は消えてしまうだろう。

「恭平……あなたは強くなる素質があるし、その意志もある。 肉体的だけじゃなく、精神的にも強い。 だから……信じてるわよ」

そして、手を取る。

「……せっかくだから、上手くいった場合、ご褒美でもあげよっか?」
「褒美、ですか?」

その言葉に、フィアがうなずいた。

「ええ。 ……もし1回で上手くいったら、私もブレイバルについて行ってあげるわ。 少なくとも、恭平よりは足しになるわよ」
「!?」

突然の申し出に、突然のご褒美。
フィアの力は確かに凄い。
恭平も、ついてきてくれるなら心強い。
だが、何よりも……その指導力、学ぶところの多さは特筆物だ。
恭平は、もっと技術を吸収したいと思っていた。
これは、絶好のチャンスだ。

「……わかりました。 絶対に、フィアさんをブレイバルに連れて行きます」
「言うじゃない。 期待してるわよ。」

と、ここで恭平は、ふと思ったことを訊いてみた。

「そういえば……フィアさんはこの塔、どうだったんですか?」
「どうって、上りきったわよ、もちろん」
「うわぁ……凄いですね、やっぱり……」

伊達に異名を持っているわけではない。

「大丈夫よ、昔の私に上れたんだもの。 恭平もいけるわ」
「……はいっ、頑張ります!」

そうして、最後の修行が決まった。

(……私が上ったのは2回目。 初回は7階が精一杯だったわ。 恭平……本当に期待してるわよ。)



SUNNY-MOON

第21話 Can you predict a future? can't you see that?



 「これが……」

今までに何度かこの前を通ったことがあるが、恭平は改めてその塔を見上げ、驚いていた。
塔を包み込むオーラは、人が中に入るのを拒んでいる。
恐らく町の人々は、このオーラに無意識のうちに気圧され、“この塔は入ることが出来ない”と思い込んでいることだろう。

「上ろうと思ったときにわかったでしょう? このオーラが」
「はい……凄い、敵意に満ちた、というか……」
「それだけ視えれば十分よ。 問題は、どこまでいけるかね」

今回は、フィアも同伴だ。
とはいえ、本当に命の危険があったときに助けるぐらいで、他に何かをする気はない。
あくまで恭平の修行。
フィアは傍観者なのである。

「はい……では、行きます」
「命の危険があったときだけ、助けるからね。 逆を言うと、それ以外の手助けは一切なしよ」
「はいっ!」

そして……扉は開かれた。





 塔の中には誰もいなかった。
正しく言うなら、階段も、敵もない。
ただ、部屋の真中に知恵の輪と思われるものが1つ、あるだけ。

「まずは初歩的な知恵試しよ。 この輪を外せば階段が現れる。 ただし……力ずくはダメよ。」

そのまんま、知恵の輪だった。

カチャカチャ

「ん……昔からこういうのは、得意で……っと」

パキン

「へ!?」
「案外簡単……あ、階段が」

音も立てず、すっと階段が現れる。
が、フィアにとってはそんなことはどうでもよかった。
3分も経たずにこの問題をクリアしてしまったのだ。
実際、この知恵の輪はかなりの難易度だった。
元々こういうことが得意な恭平ならではの事だった。

「行きましょう、フィアさん」
「え、ええ」

ここから5階までは簡単だった。
軽い知恵試しと、弱いモンスター。
とはいえ、知恵試しをといている最中に敵が現れたり、知恵試しの問題そのものが敵の中にあったりと、並の者では苦戦するものばかり。
が、恭平は動じることなく、階を上っていった。
そして、5階。

「最初の難関よ。 頑張りなさい。」

今回は、本当に何も無かった。
問題、敵、そのどちらも見当たらない。

「? ……」

恭平は落ち着いて、辺りを見渡す。
しかし、いくら見ても敵も問題も見当たらない。

「…………っ!?」

ドクンッ

一瞬、頭の中に映像が浮かんだ。
背後から突然、何者かに切りつけられる……恭平は見えた映像を信じ前方に飛び込んだ。

ブンッ

風切り音。
何かが通った証拠。

「……視えたみたいね。」
「ええ……能力のおかげです。」

[戦]系の最上級能力、“[未]未来予測(フューチャープレディクション)”
ほんの数秒ではあるが、未来を視ることが出来る。
未来予測とは書くものの、それは与えられた情報をもとに未来を“推測”するものではなく、現在の状態のままでいた場合、確実に起こる未来を“視る”能力である。
故に、余程の状況で無い限り、不意打ちは恭平に通用しない。

「でも、何が来たかは視えませんでした。 ……つまり、こいつは“見えない”んですね」
「……回転が早いわね、やっぱり。 そこまでたどり着いたのは、私より早いわよ。 ……さぁ、頑張って頂戴」

(そこまで……まだ先がある? ……まずはコイツと闘ってみて、それからだ。)

一瞬考えたが、今の条件では何も浮かばないと判断し、咄嗟に攻撃に移る。

「はああっ!!」

数本の鋼糸を真横になぎ払うように放つ。

「手ごたえは、ない……当たっていないのか? はっ!!」

シュッ! シュシュッ!

今度は5本の鋼糸をレイピアの如く素早く前方に突き立てる。

ドガガガッ!!

塔の壁が傷つくが、やはりそれ以外の手ごたえは無い。

「隠れてるのか? それとも……」

シュ……

風切る音、再び。
今度は視えていない。

「!? くっ!!」

ブシュッ

音の方向を瞬時に判断し、素早く身体をかわす。
しかし、流石に間に合わず、腕に軽い傷を負う。

「っ……傷は浅い。 ……でも、今のではっきりした。 倒す手段は……っ!!」

シュッ ズガガガガガガッ!!

鋼糸を8本、部屋中に縦横無尽に走らせる。
そして、残りの2本を部屋中の鋼糸に絡み付け、巨大な蜘蛛の巣を創り上げる。

「フィアさんっ!」
「お〜らいっ、やっちゃいな、恭平!」

フィアが防御手段を講じたことを確認すると、手に力を込め、告げる。

「“[地]地層壁(アースウォル)”っ!!」

カッ!! ガガガガガガガッ!! バキバキッ!!

恭平は、ルミナスにもフィアにも“鋼糸を手足のように扱えるように”と言われてきた。
それの最大の意味がこれである。
鋼糸に自分の精神、神経の一部を感応させ、辺りの環境を感じ取る。
そして、ついには鋼糸自体を身体の一部であるかの如く扱う。
それは、自由自在に操るという意味だけではなく、身体に代わって行動をする事が出来るようにする為なのである。
能力は、自らの身体から発するもの。
“[地]地層壁(アースウォル)”は、巨大な岩石の壁を作り上げ、攻撃を防ぐもの。
発生源は手。
恭平は、鋼糸を己の手の代わりとして、部屋中に張り巡らせることによって、文字通り部屋中に岩石の壁を呼び出したのだ。

「グ……ガ……」

ドォォォォン!!

巨大な蛙のような魔物が、岩の間から姿を現し……そして爆発。
恭平は鋼糸を戻し、ふっと一息。

「よくわかったわね。 凄いわ。」
「ええ……そもそも僕を攻撃したのは、あのモンスター自身ではなかったんですね。」

そう。
恭平を切りつけていたのは、蛙型のモンスターではなかったのだ。

「恐らくは“[幻]幻惑(イリュージョン)”……これで自分自身を幻で創り上げたんでしょう」
「その通りよ。 いつ気付いたの?」
「最初に襲ってきたときと、こちらからの反撃のときに疑問に思って。 そして2回目の敵の攻撃で確信になりました。 最初の攻撃のとき……気配は感じられなかった。 でも、風切り音は聞こえた。 つまり、そこに確かに存在していたんです」

恭平は続ける。

「そして、こちらからの攻撃に当たった感覚は無い。 ここで矛盾になってしまったんですが……2回目の相手の攻撃。 やはり音が聞こえて、咄嗟に避けたんですが、避けきれませんでした。 そして、やはり気配は無い。 こちらの攻撃は当たった手ごたえがなく、気配は感じられず、こちらには攻撃できる。 ……それで気付いたんです。 敵は気配と姿を消す能力を持ったモンスターで、僕が戦っているのは、そのモンスターが“[幻]幻惑(イリュージョン)”で生み出した敵自身のコピーなんだ、って」

それを聞いて、フィアはうなづく。

「その通りよ。 ……最短記録だわ。 この階で断念する人は多いし、何よりクリアするのに何日もかかる人が大半。 ……よくやったわ」
「あと、半分ですね。 ……“[回]回復光(ヒーリングライト)”!

パァァァ……

先ほどに傷を癒し、恭平は、現れた階段へ向かう。

「恭平。 ……次の階はモンスターは出ない。 その代わり、難しいわよ。 そして……それが終われば、後は力押し。 頭を使うのは闘うときだけ。 わかるわね」

フィアの言葉……それが何を意味するのか。
恭平は理解し、そして答えた。

「はい。 敵の強さが格段にあがるんですね。」
「そうよ。 今までのモンスターは徐々に強くなるだけだった。 でも、この先は存在の次元が違うものばかりよ。 それと、もう1つ。
次の階をクリアして、7階に上ってしまったら、戻ることは出来ないわ。 最上階まで上り、そこにいるものを倒さなければ、帰れない。 ……覚悟はいい?」

言うまで無い。
恭平は大きくうなづいた。






紅美「内容、違いますね。」

雄也「塔の内部攻略が、1話で終わるわけ無いのに」

SoU「すまんかった……もしかしたら、3話どころか4話構成かも」

雄也「恭平君だけ特別扱いかい?。」

紅美「と、とりあえず、前回の話の予告を訂正しないと!(滝汗」

SoU「うぅぅ、思慮が足りませんでした……」


次回予告

 6階。
恭平の前に立ちふさがるいくつもの難問

恭平「くっ……難しい……これほどなのか……?」

知識を以って戦う最後の壁。
そして、その先……8階以降に潜む恐怖とは。


第22話 Wisdom & Knowledge


恭平「これで……どうだぁっ!!」