「だぁぁぁぁぁっ!!」
「むっ!」
町外れにある、とある剣術道場……ここでは二人の男が戦っていた。
剣術道場というだけに、刀を用いた実践を目的とし戦い方を学ぶ所である
一人はまだ若い……十代中頃〜後半ぐらいの少年。
もう一人は、老人……傍目には四十〜五十歳に見えるが実年齢は七十に届く。
二人は模擬刀などではなく真剣を振るい、文字通り死闘を演じる。
「ていっ!」
「くっ!!」
老人が剣撃の合間を縫って拳を繰り出す。
ここは剣道道場ではなく、実戦に則した剣術道場なのだ。
拳が腕に触れた瞬間、破裂音とともに少年が軽くのけぞる。
「む……やはりこの程度では倒れんかっ」
“この程度”とは言うものの、今の一撃の威力は細めの丸太を横から叩いて粉砕出来る“程度”である。
並の人間ならばよくて大きく弾き飛ばされ、悪ければ腕の骨もろとも筋肉がズタズタになる。
それを受けてなお、少年は軽くのけぞる程度にしかダメージを負っていない。
「ちっ!」
「ふっ!」
老人はその外見からは考えつかないほどの速度で、少年の刃を刀の鎬( を使って滑らせるように体を移動、真後ろから上段蹴りを放つ。
この老人、この世界では知らないものは無いほどの剣術遣いであり、免許皆伝者でもある。
「っ!」
「なにっ?!」
しかし甘かった。
少年はそれに対し、回転しながら屈んでそれをかわし、そのまま蹴りを放つ。
水面蹴りという技だ。
「ちっ!」
「はあっ!!」
体制を崩した老人に、少年は蹴りの勢いで回転しながら、薙ぎ払うように刀を振るう。
老人は何とかその攻撃を剣で受け止めるが、崩れた体制では支えきれず、剣は弾き飛ばされ、その体は床に打ち付けられた。
それを以って、二人の戦いは終わった。
「……強くなったな、優太くん」
「……なにかに打ち込んでいないと、壊れそうだっただけですよ」
少年、優太の言葉は重かった。
SUNNY-MOON
第01話 読み込み中...
(
彼、周防優太は現在17歳。
両親が爆発事故で死んでから4年…そして、大事なものを失ってから、1年が経っていた。
優太がその彼女である美月彩音が付き合い始めて数ヶ月。
優太が、どうしても欲しかったゲームを購入したその日に、事件は起こった。
その日、家から彩音の姿が忽然と消えたのだ。
優太が電話をした、その5分ほど後のことだった。
どこかから、誰かが侵入したわけでもない。
彩音が悲鳴をあげたわけでもない。
部屋を出た形跡もない。
ただ、彩音はまるで煙のように姿を消したのだ。
そのときプレイしていたゲームは起動したまま。
警察もいろいろ調べたが、ついに事故、事件の証拠も含め、何一つ出てくることは無かった。
……そんな優太が選んだのは、剣術だった。
大事な人を次から次へと失っていった彼には、打ち込める何かが必要だったのだろう。
そして、彼は今師範を倒し、その称号を得たのである。
大切なものを守る、その目的のために学んだ剣術。
しかし、それは生かされること無く、ただただ虚しいものとなってしまった。
「今まで、ありがとうございました」
丁寧に頭を下げ、彼は道場を後にした。
「……はぁ……俺は、どこに向かえばいいんだ……」
免許皆伝という称号をもらい、打ち込んでいたものが終わりを告げた。
それは彼の生への執着心を容赦なく奪っていった。
「……父さん、母さん……彩音……」
失った、大切な人。
(死んだら、皆に会えるかな……)
などということも考えてしまう。
目的を失った人間は、脆く、儚い。
それがたとえ剣術の免許皆伝者であろうと、そう易々と変わるものではない。
「……彩音の事、守れなかったな……」
いくら力を鍛えようとも、失ったものを再び取り戻すのは容易ではない。
優太も、それぐらいは知っていた。
だからこそ、剣術に打ち込み、忘れていたのだ。
……いや、忘れたふりをしていただけなのかもしれない。
「……ゲーセンでも見てみるか」
そして、今も――。
ふらりとゲームセンターへ。
「よぉ、周防」
声をかけられ、振り返るとそこには去年のクラスメートの有坂が立っていた。
あれ以来ほとんど誰とも話をしようとしなかった優太を人並み程度にまで立ち直らせたのは、彼と、昨年のクラス委員の赤月だった。
「有坂……今日はアレ( か?」
アレ( とは、本日入荷したばかりの新ゲーム、[TRIANGLE( BLAZE( ]。
総登場キャラは40人以上、3対3までのチーム戦も可能なオンライン対応格闘ゲームである。
一応元ネタは優太の年齢では買えないゲームらしいが、遊ぶ側にとってはそんなものはほとんど関係がない。
この町のゲームセンターにも入荷され、クラスの男子の大半がこのゲームを話題にしていたところを見ると、話題性もかなりのもののようだ。
「まぁな……すげーわ、あれ。キャラも一般人みたいなやつから、剣士、剣以外にも糸やら飛針やら使う剣術家、羽の生えた女の子。極めつけは魔法少女とバリエーションもめちゃくちゃ多いし。オンライン対応だからアップデートパッチが自動で当たる、ってのもお店側にしたら嬉しいらしいな」
40人以上というと、かなり多い。
初期のゲームは大抵8人前後。
今でも2D格闘なら16人、3Dでも30人を超えたら多いほうだ。
だが、多いだけあってキャラクターの職業はめちゃくちゃなようだ。
どうやったら一般人で剣術家や羽の生えたキャラと戦って勝てるだろうか。
「なんだそりゃ。魔法少女ってアレか? 朝方やってるような、変身して事件を解決、みたいな」
大抵の魔法少女モノとはそんなもの……と、いつだったか彩音に言われた記憶がある。
あれは、男の子向けのアニメと女の子向けのアニメ、って言うのが話題になったときだ。
あまり内容もわからないので深くは話さなかったが、確かそういうものだと言っていた気がする。
「いやいや、それがとんでもない砲撃魔術師( なんだよ。俺も使われたんだけど、いかにも小学生な女の子が自分の身長より遥かにでかいビーム砲撃ってくるんだぜ? びびったよ」
小さな女の子、という言葉からは想像も出来ない行動を言われ、優太は頭を抱えた。
「わけわかんねぇ……まぁ、見てみるか」
「そうこないとな」
結局、そのままゲームセンターに入ることになった。
[奥義!]
甲高い音とともに画面内が暗転、時間が止まり、平らな板を硬い地面にを叩きつけたような乾いた音とともに、画面内に文字が躍る。
浮かんだ文字は[小太刀( 二刀( 御神流( ・奥義之六 薙旋( 。
[薙旋!]
少し短めの剣を2本携えた男キャラが、すばやくその剣を腰の鞘に収める。
そして……暗転が解け、剣が動き出す。
「お〜、[御神の剣士]チームと[魔術師]チームかぁ」
有坂の言葉通り、相手は小さな女の子2人と、それと同じぐらいの年齢の男の子が1人。
女の子の1人は真っ白い服で、もう1人はマントを着た全身黒い服、残る男の子も似たような黒い服とマントをつけている。
剣士側は青年が1人、青年と同程度の年齢と思われる女の子が1人、そして、少し年上に見える女性が1人。
青年、女性ともに黒づくめで、女の子が白いドレスを着ている。
「抜刀からの連撃か……なるほど」
妙に実践的で、役に立つかもしれない。
優太はそう思いながら画面を眺めていた。
[はああああっ!!]
再び画面暗転。
今度は年上の女性キャラが技を出した。
[小太刀二刀御神流・裏・奥義之参 射抜( ]
またしても文字が浮かぶ。
先ほどもそうだが、達筆な毛筆の字だ。
「渋いなぁ」
暗転が解け、明らかに端と端で離れていたはずの距離を、女性キャラが一足で一瞬のうちに埋める。
「こりゃ、決まったかもな」
誰が見てもそう思えた。
しかし……
[Protection( ]
一瞬暗転、同時に文字が浮かぶ。
今度のは筆記体の英文字だ。
機械的な音で浮かんだ文字と同じ言葉を読み上げると、狙われていた少女の前に巨大な光の魔法陣が出来あがる。
「げ、プロテクション! そっか、魔術師にはこれがあったか」
なんでも、必殺技用のゲージを使って前方に防御障壁を張ることが出来るらしい。
今回は、後ろにいた男の子キャラが防いだようだ。
[いくよ、レイジングハート!]
[Yes( , My( mastar( ]
その掛け声とともに、少女が杖を突き出す。
[Starlight( Breaker( ]
機械音声とともに暗転。
そこに周辺から光が集まり、それはどんどん大きな球体になっていく。
2秒ほどで、球体は少女たちの1.5倍近くに膨らんでいた。
「あれだよあれ、俺がやられた技は」
[スターライト……ブレイカーーーーっ!!]
少女の声とともに、まるでバズーカでも発射するかのような発射音。
そして、杖の先の球体が一気に光の奔流となって相手3人に流れ込む。
前方で技を出していた女性キャラは直撃、後ろの2人はガードを――
「無理無理」
パリン、という音とともにそのガードは砕かれ、後ろの2人も同様に光に飲まれていった。
[K.O!]
相手を倒した合図を受け、前でプレイしていた3人がハイタッチをしている。
勝負ありのようだ。
「防御が割れてたけど?」
「あぁ、アレはMAX必殺技でな、ガード不能なんだ」
体力点滅(20%以下)の場合にのみ、1試合に1回だけ出せる必殺技。
どのキャラにもMAX必殺技があり、全てガード不能だという。
「逆転要素もあり、か」
「そうそう、悪くないだろ?」
結局優太は、つられてか2回ほどプレイして家に帰った。
「ただいま〜」
家には誰もいない。
もはや習慣でただいまの声を上げると、優太は家に入る。
(なにか、打ち込めそうなもの……)
たとえ命を捨てたくても、それは容易ではないし、結局優太は臆病だ。
死ぬ為の道を探すぐらいなら、生きるための道を探す。
「……? そう言えば……」
ごそごそとテレビゲームが入った引き出しをあさる。
この中には、世間一般にも、優太にも、曰くつきのものが入っていた。
「このゲーム……本当にクリアできないのか?」
取り出したのは[SUNNY-MOON]というゲーム。
冒険物、いわゆるRPGで、1年前発売日にこれを買った彼だったが、途中、それも序盤で詰まってしまい、封印されていたものだ。
……ところが、詰まっていたのはなにも彼だけではなかった。
日本中で誰一人クリアできなかったのだ。
メーカーもバグだと思い、それを改善しようとしたが、なぜか何度やっても同じ場所で先に進めなくなるのだ。
やがてこのゲームはクリア不可能なゲームとしてとして名を残し、歴史の中に消えていった。
……このゲームは、彩音が行方不明になった日に購入したものだ。
そのせいもあって、これは彼の心に影を残すものだったのだ。
「…女々( しい、って言われるかな、俺」
そう言いつつ、ゲームを起動する。
自分に未来を夢見させてくれる……その条件さえ満たしていれば、何でもよかった。
――が、優太のこの選択が、彼に本当に未来を与えた――
……機動音が響く。
「皮肉だよな……このゲームのヒロインも、確か[彩音]だったっけ」
独り言を言いながら、ゲームが始まる。
タイトル画面……優太はとりあえず[NEW GAME]を選択する。
「俺も……強くなって、彩音を助けに行けたら……っ!!」
拳をきつく握り締め、改めて画面を見る。
すると、オープニングが流れるはずのところで、いきなり見たことのない画面が現れた。
[あなたはSUNNY-MOONの世界( を冒険( するに相応( しい力( を得ました。 冒険( に参加( しますか?]
目の前には[はい・いいえ]の選択肢。
彼はいつの間にか、[はい]を選んでいた。
[この先( で起( こることについて、後悔( しませんね?]
再び見覚えのない文字と[はい・いいえ]。
優太はかまわず[はい]にあわせてボタンを押す。
まったく記憶に無い文章であるにもかかわらず、優太はまったく気にも留めなかった。
まるで、これが自然であるかのように、ゲームに見入る。
……しかし、もうひとつの皮肉を、彼は忘れていた。
そして、実はそれが皮肉でもなんでもない、現実だったということを、彼は思い知ることになる。
――空間が、白んだ。
「!?」
光り輝く画面、目を開けていられるものではない。
光に逆らうように、思わず目を閉じた。
そして、心地よい感触……。
「ぁ……」
そして、優太の意識は刈り取られていった。
このゲームの主人公の名は、[優太]。
冒険が、始まる――
SoU「さて、第1話の改定です」
優太「随分マニアックなゲームだなぁ」
SoU「いや、かなり好きなんだよ、とらハシリーズ」
優太「いや、俺も好きだけど……はっ?!」
彩音「優太さん……そんなえっちなゲームしてたんですか……?」
優太「うぐぅ」
次回予告 目が覚めたとき、俺はぜんぜん知らない場所にいた。
剣、能力、陰謀、野望、希望……それらの混濁する世界に見える一筋の光。
どうやらこの道を進めるのは、俺達だけらしい。
男「ぐぅぅぅ……腕ずくでも連れて……」
優太「はああああああっ!!」
そんな時、目の前で事件が起こる。
傍目から見ているだけの人々を突っ切って、俺は飛び出していた。
そして……それこそが、この物語の第一歩――
第02話 Meeting Again
優太「ずっと……忘れなかった……」