――――――――白い。
 目を閉じているはずなのに、そこにあるべき暗闇は存在しない。
 本来なら眩しいと感じてしまうはずの色が、そこにあった。
 が、不思議とこの白に対しての嫌悪感はない。
 これが、魂が昇天する、ということなのだろうか。
「このまま死んでも、悪くないかな……」
 この光を、しいてあらわすならば、それは“優しさ”――それを形として表現したならば、この光になるだろう――そう思えるほどに、この光の中にいる少年は安らかな気持ちになっていた。
 ここにいる限り、昨日も今日も明日も関係ない。
 幸せと思えるまま、永遠を刻んでゆける……そう思えた。
 ――大切な人を守りたい――
 しかし、その思いはことごとくはばまれ、大切な人を失い……自分の力のなさに絶望する。
 身体だけではない……自分自身の、心の弱さだ。
 が、この光の中では、それらを忘れていられた。
 それは優太にとって、文字通りの幸せな時間だった。
「……?」
 眩いばかりの白が、少しずつ暗くなっていくのを感じた。
 それは、この夢の時間が終わる合図。
 それを残念に思いながらも、しかし、拒絶することは許されない。
 段々と弱まっていく白。
「せめて、もう少し……このまま……」
 だが……願いは空しく、ついに世界は黒一色に染まる。
 そこに安らぎはない。
 ……暗闇から逃れるために、ゆっくりと目を開ける。
 ――そこにあったのは、現実にはあるはずのない景色――
「……何処だ……ここ……」
 状況を整理する。
 自分が立っていたのは、だだっ広い草原。
 眼前に映るは小さな町。
 ここが何処であるかは解っているのだが・・・・・・・・、それでも口に出てしまう。
 ――そう、ここが何処であるか、少年、周防優太は知っていた。
 見覚えのある風景。
 ただし……優太はこの風景を、斜め上からしか見たことがないが・・・・・・・・・・・・・・・
「ラインハルト……タウン……」
 ――RPGゲーム[SUNNY-MOON]の最初の町、[ラインハルトタウン]が、そこにあった――



SUNNY-MOON

第02話 再会Meeting Again


 ラインハルトタウン。
 名前こそ”タウン“だが、人は少ない。
 この町は小さいにもかかわらず、巨大都市の一つである[ラインハルトポリス]に直結しており、また、管轄もラインハルトポリスに一任されている。
「なんで……俺はこんなところに?」
 ここがゲームの中である・・・・・・・・ことは解ったが、なぜここに来たのか、その理由が思い付かない。
 しいて言うなら、自分の名前が[優太]だからだが、全国的に言えばこの名前のプレイヤーもいたはずだ。
「何処をどう見ても、ラインハルトタウンだしな……髪の色も肌の色も格好もめちゃくちゃ。合ってるよな……」
 きょろきょろと周りをうかがう。
 町中には、剣を持ち鎧を着た男や女が平然と歩いている。
 建物の看板を見れば、代わり映えのない[INN宿 屋][WEP武 器 屋][ARM防 具 屋]の文字。
 何処から見ても、優太がプレイしていたあのゲーム、[SUNNY-MOON]そのままだ。
「なんでここに来たのか解らないけど……でも……」
 そう。
 自分の名前はこのゲームの主人公と同じ。
 ならばここから戻る方法は1つしか思い付かない。
 ――このゲームをクリアする――
 これが今の優太がしなくてはならないことである。
「だったら……俺は前に進むしかないよな。死ぬことも、失ったものを忘れることも、あきらめることも出来なかった俺には……ここで……ここでこそ何かを守る。主人公なら、それが出来るはずだ……!!」
 手元にはなぜか、剣術の免許皆伝となった際に受け取った刀がある。
 それが、優太には自分の進む道を教えてくれている気がした。
「……これが、最後のチャンスなんだ。やってやる……!!」
 優太はその足を、町へと向けた。



 ゲームは、ここ、ラインハルトタウンから始まる。
 この町に偶然立ち寄った少年は、女性を無理矢理連れて行こうとしている場面に出くわす。
 この町では日常茶飯事であり、誰も逆らうことも出来ないのだが、そんなことを知らない少年は、その少女を助ける――
 はずなのだが、ゲームは出会いの場面で止まってしまう。
 それが、決して直らなかったバグの内容だ。
 が、優太には、今回はしっかりと話が進む、としか思えなかった。
 なぜだか解らないが、そういう確信があったのだ。
「おい……いい女じゃねえか、俺と一緒にこい!」
 町に入ったとたん、大声が聞こえる。
 ゲーム中ではここでおしまい。
 が、優太の確信通り、話は止まらない。
「?! そ……そんなこと、いきなり言われても困ります!」
 町の娘も突然連れて行かれてはたまらない。
 当然の如く反論する。
「ほぉ……俺に逆らうのか。 なら、おとなしくしてもらうしかないな」
 この王子は、いつもこの手で町の娘を連れていっていた。
 ゆっくりと手を近づけ、女性の肩に触れ、叫ぶ。
「“[電]激痛撃スタンニングペイン”!」
 途端、電極同士を触れ合わせた時のような、鋭い音が走った。



 この世界には魔法のような、[神紋術エンブレメリー]というものが存在する。
 手の甲に最大4つまで紋章を刻み、それに対応した特殊な能力が使用出来るというもの。
 それぞれにはレベルが存在し、当然ながら、最初はレベル1の能力しか使えない。
 レベルは5段階、戦闘によって経験を積み、その経験の度合いによって新たな能力が発現する。
 [神紋術エンブレメリー]は、[契約の書]を用い、それ専用の[契約の間]で執り行われる[契約の儀]によって使用できるようになる。
 が、この町ではその全てをこの王子が封鎖しており、[能力者]は王族のみであった。
 外部からの能力者を規制するなどして、自分たちが絶対であることをアピールしていたのだ。



「!? きゃああああっ!!」
 この“[電]激痛撃スタンニングペイン”は文字通り、激痛を与える能力である。
 ダメージはそれほどないが、あまりの痛みに気を失うものもいるほどだ。
 そしてこの痛みは、本能に恐怖として刷り込まれる。
 このような痛みを受けるぐらいなら、他のことを受けて、屈服する……大抵の人はそうなってしまうのだ。
「なかなかいい声だな……どうだ? 来る気になっただろう?」
 今まで抵抗した人間は誰一人いない。
 それは、これがゲームでそういう風に答えるシステムだったから、ではない。
 この激痛は本物……そして、その痛みに皆が屈服していたのだ。
 ……だが、この少女の意思の強さは尋常ではなかった。
「うぅ……ぃ、ぃゃ……です……」
「?!」
 辺りを取り巻いている町の人からも驚きの声が上がる。
 今までそう答えた人間はいなかったのだ。
 無理もない。
「ぐ……な、ならば、腕ずくでも連れて……」
「はああああああっ!!」
 現れた疾風。
 その疾風が、叫び声とともに連れて来た凄まじい衝撃、轟音。
 怒りをあらわにしたはずの王子は、次の瞬間数メートル先まで吹き飛ばされていた。
 町の入り口から王子の所まで約100メートル。
 優太はそれをわずか3秒で駆け抜け、暴君に鉄槌を叩き付けた。
 これが、人間に対して初めて放たれた、優太の本気の攻撃だった。
「ふぅ……」
 周りの人間は唖然としている。
 当然だ、時速約120キロもの猛スピードで人間が現れ、しかも絶対的なイメージのあった王子を一撃の下に伏したのだ。
 そして……それは、先ほど襲われていた少女も同様だった。
 ただ呆然と、少年、優太の背中を見詰めている。
「……大丈夫か?」
 とりあえず、少女に近づき声をかける。
 怪我はないようだが、かなりの激痛――人に触られることすら恐怖に感じる人間もいるほどの――を与えられたのだ。
 どこかに異常をきたしている可能性は、まったく否定できない。
 が、彩音の件以来、優太は女性が苦手な部類になった。
 突然壊れてしまうような、そんなもろい存在に見え、恐ろしかったのだ。
 結局少女から目を逸らしつつ、声をかけた。
「ぁ……はぃ……だいじょう……!?」
 少女は逆にこの言葉で我に返り、自分を助けてくれた人にお礼を言おうと少年の方を向いた。
 そしてその瞬間、少女の時が止まった……いや、動き出した・・・・・というべきだろうか。
 まるで……ずっと探していたものを見つけたような、嬉しそうな顔。
 その笑顔のまま……優太が一番欲しかった言葉を、紡ぐ。
「……優太、さん……」
「!!」
 その声を聞いて、勢いよく少女を見た。
 もともと長かった髪は更に伸び、体もより一層丸みを帯びたように見える。
 だが……どんなに変わろうと、見間違うはずはない。
 自分が剣術を鍛え、力を得るに至った理由……何よりも、大切な人。
 全てを投げ打ってでも守りたかった存在。
 彼の全てといっても過言ではなかった人間が、そこにいた。
「……彩音……っ!」
 再会。
 行方不明になったはずの、彼女。
 美月彩音がそこにいた。
「ずっと……忘れなかった……」
 抱きしめる、力強い腕。
 彩音は、何の抵抗もなく、涙を流しながらそれに身をゆだねる。
「優太、さ……ん……」
 そして、彩音からも優太を包み、抱きしめる。
 2人は1年ぶりの再会に、涙を流しながら抱き合っていた……。




SoU「改訂版第2話です。足りなかった説明を多少足して、第0話での重複した説明を削除。あとは……」
優太「能力の名前の決定、だな。 [神紋術エンブレメリー]だっけ?」
SoU「うん。あまり上手な造語じゃないけど、[紋章]をメインに据えたくて、結局こうなった」
彩音「解りやすい言葉ではありますね。何より作中では多用されなさそうですし、これぐらいでいいと思いますよ」
優太「ところで……この先の彩音は?」
SoU「前と違い活躍するから安心しろ」
彩音「わ〜♪ 前回強調されてたのは、[天然ボケ]だっていうことぐらいでしたからね」(にっこり
SoU「怖っ!」

次回予告

 俺の力を見込んで、王政からの解放を望む町の人々。
 この先にあるのが遊びではない、本当の戦いであることはわかっている。
 まして、一人で出来るわけもないのはわかっているのだが……

男1「お願いです、どうか、この町を……」
男2「あなたの力なら、きっと出来ます!」

 彩音を守りたい、ずっと側にいたい……でも……。
 物語の主軸となってしまった彼は、否応無しに戦いに巻き込まれるだろう。
 しかし、彩音を戦いに巻き込むことに不安を覚える優太……出した、答えは……!


第03話 One step to the future



彩音「私は……何があっても、もう離れません!」







NEXT

TOP