「まさか、こんなところにいるなんてな……」
着替えに行った彩音を送って、優太はつい言葉を紡いでいた。
普通の人には理解できるわけもないこのような場所に、彼の想い人は囚われていた。
「……彩音を、巻き込みたくないんだけどな……」
元の世界に戻る、ということは、シナリオを進める、ということ。
シナリオを進める、ということは、戦い続ける、ということ。
彩音と一緒にシナリオを進めれば、当然彩音を戦いに巻き込んでしまう。
そして優太は、当然ながら、彩音を戦いには巻き込みたくない。
かといって、離れ離れになって旅をするのも、それはそれで嫌なのだ。
今回の王子のように、彩音を狙うものが現れるかもしれない。
それでなくとも、この町がずっと平和だとは限らない。
そもそもこの世界は、日常的にモンスターが現れ、町中を剣や弓等の武器を持った者たちが歩き回る世界なのだ。
その安全に対する不安の度合いは、世界でも有数の安全国家である日本とは比べるまでもない。
「でも……」
それでも、前に進まねばならない。
戦いに赴かねばならない。
なぜなら……それが、自分はもとより、彩音を元の世界に帰す事が出来る可能性の一番高い行動だからである。
ここはゲームの中ではあるものの、一つの[世界]である。
その[世界]から抜け出すには[条件]が必要なはずだ。
普通の行動では、[世界]から抜け出すなど不可能であろう。
それは、自分たちのいた[世界]では、このゲームの中のような、別の[世界]の存在が未だ確認されていないこのが証明している。
優太が認識できた[条件]と思われるもの、それが[このゲームをクリアする]ことなのだ。
(が、それでは彩音を……)
答えの出ない問題が、頭の中をめまぐるしく回る。
「……どうしたんですか?」
柔らかな声が響く。
――あぁ、この声だ。
これを守りたくて、救いたくて……俺はこの世界に、偶然ではあるものの存在している。
ならば――
「……いや、なんでもない。久々に会ったから、何を話せばいいか戸惑っただけだ」
「優太さん……」
「言いたい事も沢山あったのに、全部吹っ飛んだ。とりあえず……会えて嬉しいよ、彩音」
そんなことを言う俺を見て、彩音は小首を傾げて柔らかな笑みを浮かべる。
――畜生、それは卑怯だ。
「はい、私も、会えて嬉しいです、優太さん♪」
その姿は、俺の知っている彩音よりも、幾分大人っぽくもあり……だがしかし、これ以上ないほどに彩音だった。
SUNNY-MOON
第03話 未来への一歩
(
「2人とも、遊びに行っておいで。久しぶりに会ったんだろうし、つもる話もあるんだろう?」
そんな声が隣から聞こえてきた。
――先ほどの王子は未だにのびている。
あの威力は尋常ではない。
生きているだけでも奇跡というものだ。
「にしても、彩音ちゃんもやっぱり女の子だねぇ……数多の男の誘いを断ってたのは、こう言うことだったのかい?」
にやけるおばさんの言葉に、彩音は真っ赤になった。
「な、な、な、何言ってるんですかっ! もぉ……」
慌てふためく彩音に、町の皆が笑う。
優太の知らない、彩音の[日常]の一部がそこにあった。
(ここに馴染( んでる……それぐらい、長い間いたんだもんな……)
溜息を、1つ。
自分の不甲斐無さに、情けなさに、そして、ここで彩音が[日常]の中にいられたという事実に。
そんな思いに泣きそうになる自分を抑えつつ、優太は手を差し出した。
「……折角の言葉だ……いいか?」
「ぁ……はい♪」
優太が伸ばす、暖かい手。
彩音は照れながらもそれを取り、2人は町の中へと繰り出した、
町中を歩きながら、彩音がいろいろと説明してくれている。
「ここが武器屋です……って、もう獲物、持ってるんでしたね?」
ここに着いたとき、何故か持っていた刀。
まるで、ここでは刀を振るうのが当たり前……そう言わんばかりに。
「持ってきたつもりはないんだけどな」
優太の苦笑い。
それを見て、本当に幸せそうな笑顔を返す。
「……よく、私のことを覚えててくれましたね?」
小悪魔、そう呼ぶにふさわしい、少々意地悪な微笑み。
そんな、大人の女性の表情に思わずドキッとする。
(こいつ、こんなに大人っぽかったか?)
この1年の間、いったいどれだけの苦労をしたのだろか。
(やっぱり、彩音を巻き込まずに旅をしないといけないな……)
優太はその決意を新たにする。
「忘れたことなんか、一度もないぞ」
そう言うと、優太は昔のように、優しく頭を撫でた。
「わ……♪」
彩音は嬉しそうに目を細める。
(ねこみたいなのは相変わらずだな)
再び訪れた2人の時間。
出来ることなら手放したくない。
が、2人が元の世界に戻るには、このゲームをクリアする以外に道はない。
――しかし、そんな悩みを、彩音は見逃さなかった。
「……優太さん、悩んでいるでしょう?」
「!?」
彩音は、人の感情に対して鋭い。
ちょっとした雰囲気の違いからもすぐわかってしまうのだ。
それは、相手をよく見ているから。
まして、それが自分の好きな相手、優太なら尚更だ。
「どんなことで悩んでるのかはわからないですけど……でも、これだけは言えます」
そう言って正面で優太を見る。
優太を見つめるその眼は真剣で、強い決意を持っていた。
そして、紡がれる言葉。
それは、優太の悩みなど一撃で吹き飛ばす破壊力を持っていた。
「私は……何があっても、もう離れません!」
「!!」
辛いことがあろうと、危険があろうと、そんなことは関係ない。
一緒にいたいなら、いればいい。
彩音は、そう言ったのだ。
(俺は……なんで悩んでたんだろうな)
そう……考える必要などなかったのだ。
どうするかは、彩音に聞けばよかったのだ。
彩音は、しっかりとした答えを出してくれた。
なら、優太が答えないわけには行かない。
「……わかった」
大きく息をついて、今度は優太が彩音の方を見る。
彩音はじっと優太を見つめ、その答えを待っている。
優太と彩音の気持ちは一致している。
ならば、この答えを出すのに、戸惑いなど、いらない。
ためらいなど、必要ない。
「ついて来て、くれるか?」
ただ、それだけ。
それでよかったのだ。
そうすれば、彩音は――
「はいっ♪」
こう答えて、すべてが丸く収まる。
「よし、もう少し見たら、さっきの場所に戻ろう。で、戦いの準備だ」
「解りました、頑張りましょうね、優太さん」
こうして、2人の戦いは始まったのだった――
SoU「どうも、執筆者のSoUです。改訂版第3話、少し台詞を伸ばしたり描写を増やした以外は……あ、一応矛盾点が直ってます」
彩音「矛盾点、ですか?」
優太「前半部分と後半部分の時間軸が合ってなかったんだろ?」
彩音「あぁ、だから変な文章だったんですね」
SoU「編なのは私が書いてるからですよ……うぅ」
次回予告 決戦は明日。
彩音とともに、優太は圧政を行っていた城を陥落させ、この町を開放することを決める。
そしてこの世界の装備品を借りた優太たちは、2人で町と帝都を結ぶ関門破りに挑む。
優太「邪魔するな、道をあけろ!」
彩音「立ち塞がれば、容赦しませんよ!」
次々と難関を突破し、帝都も目前となった優太に、一人の騎士が立ちふさがる。
相手は能力者。
能力のない優太、彩音の両名にとってその者は、優勢だった流れを一気に押し戻すジョーカーであった。
第04話 Rival
???「すみません、ここは通せません……私の、命に代えても」