「兄ちゃん、これ使いな」
翌日の朝……優太は教会に呼ばれると、町の人たちが持ってきた、多数の武器防具に囲まれていた。
優太が次に取るべき行動は、この町の隣、ラインハルトポリスを陥落させる、というものだった。
[能力者]を王族で独占し、市民の反乱を抑圧するだけではなく、先日の王子のように、傍若無人な振る舞いを繰り返す。
外部から[能力者]が入ることも禁止しているこの町にとって、この圧制から開放される手段は、もはや突然現れた優太たち以外になかったのだ。
「彩音ちゃんは身を守る装備がいいな……この剣と盾なんてどうだい?」
指差したそれは、大型のラウンドシールドと、小型の剣。
相手を斬りつけることより、剣を弾くことを目的に作られており、正しく守るための装備だ。
「あ、ありがとうございます……」
「俺は……これがいいですね」
優太が選んだのは、腕に直接つけるタイプの小型ラウンドシールド。
機動性を損なうことなく、攻撃を防ぐことができる。
「それは使いやすそうですね……私は、この剣よりは、むしろこっちが……」
手に取ったのは、櫛のような形の剣。
名前は、ソードブレイカー。
櫛状の部分で相手の剣を受け、そのままへし折るという、文字通りの剣破壊武器である。
「ところで……そこにあるすごくでかい剣はいったい?」
渋く光る一本の剣。
刃が圧倒的に横に広く、そして長い。
両手剣だろう……ただし、装備することができれば、だが。
というのも、この剣、全長は優に4メートルを超えている。
到底人間様の武装ではない。
[剣身]の[鍔]付近にはショットガンのポンプアップユニットのようなものが付いており、[握り]側の[鍔]には小さな引き金のようなものがある。
「いや……ただ、なんでも伝説の武器のひとつでな。遠い昔に現れた勇者様が使用したものらしい」
「ここから少しは慣れたところにある町、[ブレイバル]に、光と共に現れたそうでな……今の俺たちの数倍の大きさの巨人だったそうだ」
「なんでも、[オリハルコン]って言う超金属で出来ているらしい。この地上でもっとも硬く、強い剣。この町のシンボルだよ」
「[魔法金属]とかいうそうでな、今はもう、ここ以外にはほとんど存在しないらしい。ただ……こいつ、異常なまでに重くてね」
「そもそも持てる人間なんていないさ。重さも300キロを優に超えてるんだからな」
町の人がまくし立てる。
この小さな町が誇る、巨大な剣。
もしこの町を救うというのならば、これ以上うってつけの武器はない……なにしろこれは[勇者の剣]だ。
強度、硬度等、武器としては超一流だ。
もっとも……これを振るえる人間がいれば、だが。
「へぇ……」
「優太さん、使えますか?」
突拍子もないことを言い出す彩音。
先ほども言ったとおり、これは人間には持てるものではない。
……この言い方では少々御幣がある。
――一般的な規格どおりの人間では、装備不可能な武装だ。
「あぁ、多分な。300キロぐらいなら……っ!」
『いっ!?』
町の人の驚きの声が重なる。
この町が今の制度になった際に、王族に持ち出されないように教会の中にこの剣を運び込んだ。
このことを伝える文献には、10人を超える大人数で運び込んだ、と書かれている。
それほど重いオリハルコンの剣を、平気で振りまわせる人間がちゃんといたのだ。
これなら、町を救ってくれるかもしれない……町の人の期待が一層高まった。
「こいつ、借ります」
SUNNY-MOON
第04話 ライバル
「ここを開けてくれ。 この国の王に用がある」
王様の事を知ってか知らずか、関門にたどり着いた優太は開口一番に言い放った。
「ん? 通行許可証はあるのか?」
「悪い、持ってない」
この国だけではないが、どの国でも、国王に謁見するためには、通行許可証、謁見許可証といった特殊な書類が必要になる。
当然、優太たちがそんなものを持っているわけもない。
「ならば立ち去れ。……言っておくが関所破りが死罪なのはわかって……」
その言葉を無視し、優太は勢いよくオリハルコンの剣を水平に構えた。
「確か、こうやって……」
「その剣には秘密があるんだ」
出陣する直前、町の人がこんなことを言い出した。
「なんでも、[かぁとりっぢ]とかいうのが中に入っていて、そこの[鍔]の部分の引き金を引くと、[かぁとりっぢ]からすごい力が出るらしいんだ」
「[マリョク]とかいうのが動力源らしいが、構造とかはちっとも解らんかった。文献に書いてあったんだ」
「巨人が直接話してくれたそうだから、間違いないだろう……尤( も、その文献も[ブレイバル]にあるから、確かめるのは難しいがな」
[かぁとりっぢ]……カートリッジのことだろう。
とするなら、これは火薬によって勢いを加速する武器なのだろうか。
……いや、町の人は[マリョク]が動力源だと言っていた。
恐らくは[魔力]だろう……ならば、これはいわゆる[魔法]というやつなのだろうか。
「ありがとう……試してみます」
そう、もはや試してみるしかない。
論より証拠、というやつだ。
「いけっ、カートリッジ、ファイアッ!!」
小さな引き金を引く。
同時に、かちり、と、小さな音がした。
次の瞬間……
ドンッ!!
爆発音と共に、刃の部分が青白く輝く。
[魔力]というものを用いて剣の加速度、硬度、強度、その全てを倍化させる。
猛烈な唸りを上げて、門へと迫る大剣。
その攻撃のどのパラメータをとったところで、止める事が出来る者などいない。
「!! い……っけぇぇぇぇぇっ!!」
ゴォォォォォォォン!!
轟音。
大剣はそこに何もなかったかのように、一撃で門を薙ぎ払う。
忠告をしている最中だった兵士も、その側にいて見張りをしていた兵士も、突然広がった視界をただ呆然と見詰めている。
そして、それは剣を振るった優太も同じだった。
「これは……すごいな……」
これ以外に言いようがない。
その辺の武器では、いくら優太でもこんな結果は出せまい。
「そうですね……でも、お陰で先にいけますよ?」
なんとも暢気( な会話だが、ここではこれが正解だろう。
そのまま2人は門を通過する。
――が、何事もなかったように目の前を通り過ぎる2人を見て、1人が我に帰った。
「――っ!! この! 関所破りだーっ!!」
その声とともに集まる兵士、およそ10。
全員が剣を構えている。
この都市を守る騎士団である。
当然ながら、そこら辺の一般市民とは比べ物にならないほど強い。
が、優太たちは恐れもせずに言い放つ。
「邪魔するな、道をあけろ!」
「立ち塞がれば、容赦しませんよ!」
そして、戦いが始まった。
「だあっ!」
「ふっ!」
相手の剣を避けながら、優太は相手を撹乱させていく。
「このやろう!」
「あんなものを持っていながら、ちょこまかと……っ!」
優太に追いつけない兵士は、とりあえずと彩音に剣を向ける。
「おとなしくしろっ!」
「嫌ですっ!!」
ソードブレイカーで相手の剣を受け止め、そのまま捻る。
――鈍い音を立てて、剣が砕ける。
「なっ!!」
「女の子に乱暴なことしちゃダメですよ〜!」
そのまま優太の元へと逃げ出す彩音。
兵士は、かまわずそれを追いかける。
「もう少し……」
「あと、二歩……」
――気がつけば、10人ほどの兵士はみんな固まって優太たちを追いかけていた。
そして、それこそが2人の狙い。
「……っ! そろそろかっ!」
優太は突如足を止めると、大きく踏み込む。
勢いよく体を捻り、剣を振りかぶる。
『!?!?』
今まで逃げていたものが突如牙を向く。
一般的には[窮鼠猫を噛む]的な図だが、実際には全て優太と彩音の戦略。
この剣の長さは普通の剣の3倍近い。
そして今、敵は全てその間合いの中にいる。
「!! みんな、散りなさ……」
「遅いっ!!」
現れた男の叫び声は、兵士たちに届くことはなかった。
ゴウッ!!
強力な一閃……もはや鎧など意味はない。
「ぐわああああっ!!」
「わああっ!!」
わずか一撃。
それだけで、敵の兵士たちは吹き飛ばされた。
鎧と剣は砕かれ、重傷ではないが、戦えるようなものではない。
「……っと。あんたで、最後か」
今までと違う空気を、優太は感じていた。
――こいつは実力者だ。
今までの雑魚とは桁が違う。
「そうですね……ここは私に任されていますから、私が倒れれば、この関門を守る者はいません」
「……そこをどいてくれないか?」
「お願いします、私たちはどうしても王様に会わなければいけないんです」
2人の言葉……しかし、それは彼には届かなかった。
「……すみません、ここは通せません……私の、命に代えても」
相手の男は細長いその剣を構える。
「この剣じゃ、分が悪いか」
優太も、大剣を手放し腰にある刀を引き抜く。
「……いきます!」
最初に駆け出したのは、相手の男。
体を思い切り低くかがめ、弾丸のように一直線に走るその速度は並みの速さではない。
「せえ……のっ!!」
金属音が響き、2人の武器がぶつかり合う。
「ぐっ……!」
「なにっ……!?」
2人は驚きを隠せない。
(俺の力に匹敵する力の持ち主がいたのか!?)
前にも述べたが優太の力は世間一般のそれを大きく上回る。
その攻撃が正面からぶつかり合ってはじかれる……それはつまり、同等の力だということだ。
(くっ……この男、[能力者]ではないというのに……っ!!)
男は[能力]を使用していた。
“[撃]龍撃化( ”……自らの攻撃力を格段に上昇させる能力である。
Lv.3の[神紋術( ]であり、これにより男の力は5倍近くにはなっているはずである。
それとぶつかり合い、互角。
尋常ではない。
「はあああっ!!」
「せいっ!!」
武器同士が激しくぶつかり合う。
彩音はその戦いを眺めていた。
(この人、私たちとは違う何かを持ってる……下手に、割り込めない――!!)
彩音は彩音で、相手の男の能力をなんとなく見抜いていた。
下手に手出しを出来る状態ではない。
「ふっ!!」
優太はすばやく回り込むと、刀を納めた。
そして、そのまま勢いよく一閃――
「っ!! ちっ!!」
ギィン!!
優太の納刀からの抜刀術。
それを、男は瞬時に受け止める……しかし、その程度で抑えきれるわけでもなく、そのまま大きく弾き飛ばされる。
「くっ……強い……!!」
男は心底驚いていた。
“[撃]龍撃化( ”。
そして、自分自身の瞬間的な移動速度を格段に引き上げる“[風]流線風( ”
それらで自身の能力を引き上げているにもかかわらず、どの点も自分と互角以上の能力を見せている。
そして、何よりその戦闘技術。
瞬時に死角に入り、反応できないほどの速度で斬撃を放つ。
明らかに戦いなれしている。
しかもどういうわけか、相手の武器はこっちの攻撃をすべるように受け流しながら反撃してくるのだ。
大型の剣、防御用の左腕部にある小型のラウンドシールド、金属製のフルプレートメイル。
これらの装備の大半が、相手の武器が刀であることによって不利に働いている。
――だが。
「やりますね……なら、これはどうですかっ!」
瞬間、優太の腕を何かが掠める。
「!?」
そこから、かすかな出血。
そう、彼には、優太たちにはない武器がある。
「“[真]真空壁( ”……[能力者]ではないあなたに、かわせますか?」
真空の刃を飛ばす、Lv.3の能力、“[真]真空壁( ”
見ることの出来ない攻撃に、優太も冷や汗を流す。
「優太さん!」
「来るな!」
駆け寄ってくる彩音を制しながらも、優太はかなり焦っていた。
(く……これが、[神紋術( ]……!!)
わかりきっていることだったが、突き付けられた現実は、厳しかった。
SoU「どうも、執筆者のSoUです。改訂版第3話、少し台詞を伸ばしたり描写を増やした以外は……あ、一応矛盾点が直ってます」
彩音「矛盾点、ですか?」
優太「前半部分と後半部分の時間軸が合ってなかったんだろ?」
彩音「あぁ、だから変な文章だったんですね」
SoU「変なのは私が書いてるからですよ……うぅ」
次回予告 偶然[SUNNY-MOON]を手に入れた少女たちは、SUNNY-MOONに隠された真実に踏み込んでいく。
そして現れる、謎を解く鍵を持つ者。
???「あの力は……何……?」
この世界に於いて希少な[魔導士]、異世界における[英雄]。
そして、映し出される真実とは――。
第05話 真実
(
???「3人とも……これが……今実際に起きていること……真実よ」