場所は変わって、ここは優太たちの住む町のゲームショップ、『PURPLEパープル BREEZEブリーズ』。
 カードゲームショップと1階2階で分かれており、規模は結構大きめ、この町最大級のゲームショップである。
「はぁ……」
 その店のゲームフロアにて、店番をしている1人の女性。
 背は一般の女性より少々高め。
 髪は赤というより朱に近く、腰までと非常に長い。
 服の上から見ても解るほどに抜群のスタイル。
 しかもかなりの美人……そう、あの日、優太と彩音を応対した店員である。
「大学の講義がなくて暇だから店番手伝ってるけど……なんだか、余計に暇ね……」
 そう、彼女はこの店の店長の一人娘。
 いわゆる看板娘である。
 が、時間は平日の真昼間であり、流石にこの女性がいるとはいえ、簡単にお客が来るようなものでもない。
「母さんは買い物に行っちゃうし……せめて誰か話し相手でもいればよかったのに」
 結構広いフロアの中に、1人。
 いまだ恋人がいない自分自身を表しているみたいだな、と思い、溜息が漏れる。
「恋人……か。私には無理だなぁ……妥協なんて出来ないから」
 そう、彼女には想い人がいる。
 が、彼女は非常に天邪鬼で、言いたい事はうまく言い出せない。
 恥ずかしい、断られたらどうしよう……そういった気持ちが、思わず[否定]の言葉として外に出てしまうのだ。
 と……自動ドアが開く。
 どうやら来客のようだ。
「いらっしゃいませ〜」
「あ、あの、すみません……このゲーム売りたいんですけど」
 その客は、真っ直ぐカウンターまで来ると、一本のゲームを出した。
 店員の女性を見て顔を赤らめているところから見ると、この近所の者ではない、あるいは最近引っ越してきた者のようだ。
 なにしろこの女性の噂は、近所で知らないものはない。
 既に隣町にまで響き渡っているほどだ。
「あ、はい。 えっと……」
 手渡されたゲームは新品同様の綺麗さ。
 買取価格表を元に、商品を――
「……あれ?」
 だが問題が1つ……買取価格表に載っていなかったのだ。
 この場合、お店としての対応は決まっている。
 買取が出来ない旨を伝え、ゲームソフトをお返しするのだ。
「すみません、価格表に載っていないものは買い取れない事になってまして……」
「あ、そしたらそちらで処分してもらえませんか?」
 と、今度はお客からの提案。
 いらないものをお金に変えられたら、という気持ちで売りに来るお客は、売れなければ売れないで処分を頼むのだ。
 何しろ元はあれば邪魔な物なのである。
「はい、それではこちらで引き取らせていただきます、ありがとうございました」
 ゆっくりと、軽く頭を下げる。
 こうして、そのゲームはその女性店員の手元に渡ったのだった。



SUNNY-MOON

第05話 真実Truth


「というわけで、手元にきたんだけど……どんなゲームなのかな?」
 翌日……美人女性店員である日高ひだか水羽みはねは、友人の椎名しいな由依子ゆいこの家にいた。
 日高水羽――現在19歳、大学1年生。
 年齢以上に大人びた考え方をするのは、母親と2人暮らしだったからだろうか。
 大学内における人気を友人、由依子と二分する美少女だ。
 対してその由依子は身長153cmと小柄。
 にもかかわらず(?)スタイル抜群。
 また、優雅な雰囲気、物腰の柔らかさ、人当たりのよさ、と、同性から見ても話しやすく、水羽同様人気は高い。
 髪はショートカット。
 顔に幼さが残るが整っており、いつも背の高い水羽と一緒にいることもあってか、余計に可愛らしく見える。
「えっと……ごめんなさい、見たことないですわ」
 まるでどこかの令嬢のような言い回し。
 だがそれが彼女の普通だ。
「恭ちゃんなら知ってるかな?」
 恭ちゃん……椎名恭平きょうへい、由依子の兄である。
 眼鏡をかけており、背は180cmと大柄、身体は細いがしっかりしていて、弱そうには見えない。
 由依子の兄だけあってか、優雅な雰囲気、物腰の柔らかさ、人当たりのよさ……この辺りはずば抜けている。
 実は案外抜けているところもあるのだが、それがまた愛嬌に見えるから不思議だ。
 密かに水羽の想い人だったりするのだが……?
「でしたら、お部屋のほうに行ってみましょうか?」
「そうだね」
 何気なく答えて、その一歩を踏み出す水羽……そこに一言。
「……水羽ちゃん? そっけなく答えた振りをしてますけど、頬が緩んでますわよ?」
「なっ?!」
 ちなみに、水羽が恭平を好きだということは、友人たちにとっては最早周知の事実なのだった――。



 恭平の部屋の前……由依子が軽くドアをノックする。
「兄様〜?」
「由依子? いいよ、入っても」
「失礼しますわ」
 ゆっくりドアを開ける。
 恭平の部屋は綺麗に片付いていた。
 普段からそういう性格なのだろう。
「どうしたん……あ、水羽ちゃん、来てたんだ」
 と、視界に水羽を捉え、柔らかい声をかける。
 ちなみに、恭平にとっても水羽は想い人。
 が、この関係を壊したくない恭平は、それを言い出せずにいる。
 そして、恭平のそんな気持ちも友人たちには周知の事実なのだが、その辺はまたいずれ。
「うん。ちょっと、気になるものがあって……」
 そう言って、水羽はソフトを渡した。
 多少安くても、元手がタダ、売れれば全額利益だ。
 ――だが、恭平から返ってきた答えは、その期待を裏切るものだった。
「[SUNNY-MOON]? あぁ、前代未聞の“開始数分で何も出来なくなるゲーム”だね」
「へ……?」
 恭平の言葉の意味がよくわからない。
 何も出来なくなる、とはどういう意味だろうか。
「僕もプレイしたことはないけど、なんでも致命的なバグがあって、ゲームを始めて数分で何も出来なくなる……ゲームとして破綻してるゲーム、らしいよ」
 それを聞いて水羽は肩を落とす。
「お客さんにもらったのいいけど、売り物にならないよ……」
 文字通り“処分”しただけだったらしい。
「だよね……雑誌で紹介されたり、説明書を見る分には面白そうなんだけどね……」
「残念でしたわね、水羽ちゃん。……あ、そう言えば話は変わりますけど……」
 このゲームの話はここでおしまい。
 2人は由依子の話に耳を傾けた。
「数日前から、この町の周防優太っていう人が行方不明なんですって」
 町の中で広まり始めた噂。
 それはなんてことのない話のはずだった。
「えっ? そう言えば昔、女の子が行方不明になったよね……結局見つかってないの?」
「そうみたいだね。 確か、なんとか彩……!?」
 その名前を思い出した瞬間、恭平が説明書に見入った。
 真剣な目で、1ページずつ、見逃しのないように説明書を見る。
 まるで、何かを探しているかのように。
「? 兄様? 一体……」
「……ねぇ」
 恭平の声が震えている。
 が、2人はそれに気づかない。
「……いなくなったのって、“優太”と“彩音”だよね。……このゲームの主人公とヒロイン……」
「えっ……!?」
 説明書には、何でもないことのように、“優太”と“彩音”の名前があった。
「これは……一体……」
「まさか、これになぞらえた事件……?」
 3人の運命が、変わろうとしていた。



「あの力は……何……?」
 椎名家の前に立つ、1人の少女。
 紺のワンピースに身を包んでいる。
 遠くからは平々凡々な少女にしか見えないのだが、なかなかどうして。
 顔が見える位置まで近づくと、それが間違いだとわかる。
 文学少女、のイメージに取られやすい眼鏡だが、彼女の場合はファッションとして機能している。
 優しい温和な雰囲気は周りのものを和ませる。
 一緒にいると暖かい気分になれる、そんな少女だ。
「ここ、なんだ。……僕もいっしょに来てよかったのかな?」
 その隣にいる男性……正直言って10人すれ違って9人は振り返る……下手をすると10人全員が振り返るかもしれない……そんな外見をしている。
 奇抜なのではない、純粋に格好いいのだ。
 着ている服はスーツ……仕事帰りか何かなのだろうか。
 万年主席、運動神経抜群、人当たりもよく、その外見はまさしく完成された、という言葉がふさわしいほどに格好いい。
 挙句に世界を揺るがすほどの大企業、如月グループの後継。
 背は171cmと平均的だが、彼はそんな武器など必要としない。
 彼を言葉で表すなら、まさしく“完璧”。
 そしてその完璧な彼は隣の少女の未来の旦那様だったりする。
「はい。どうやらゲームソフトから流れてきてるみたいなんですよ、この力。ですから、中を調べたりするには……」
「なるほどね。それじゃ、いこうか」
 彼はコンピュータ関係に詳しいのだ。
 どうやらこの2人は、椎名家の中から感じる特殊な“力”を調べるために来たらしい。
「はい、お願いします」
 男は躊躇ためらいなくチャイムを押した。
 ……しばらくして、中から男が出てくる。
「えっと……どちら様でしょうか?」
「あの……突然申し訳ありません、私、赤坂あかさか紅美くみといいます」
「僕は双水ふたみ雄也ゆうやです。いきなりすみません。ちょっとお話があるのですが……そちらの持っているゲームのことで」
 2人は頭を下げた。



「それで……用件というのは?」
 恭平の部屋。
 そこに先程の2名も加わり、5名が座っていた。
「……単刀直入に言わせてもらいます。そのゲーム、調べさせてもらえませんか?」
「!? やっぱり……これ、事件と何か関係が?」
 別に言う必要もないのだが、思わず水羽の口から漏れてしまった言葉。
「なんとなく気づいていたみたいですね」
 そう言って、雄也はゲームソフトを自前のノートパソコンに繋ぐ。
「……っと……? 私の力だけじゃ、入り込めない……? すごい力……」
 どうやら紅美には特殊な力があるらしいが……ゲームソフトの中を覗き見ることは出来ないらしい。
「力……?」
「紅美は、普通の人にはない、変わった力を持っているんですよ」
 変わった力……それは[魔力]と呼ばれる力。
 ゲーム、アニメ、小説と、媒体を問わず、一切の説明もなく描かれ、そしてそれが何事もなく受け入れられる、そんな力の名前。
 現実には存在しないといわれている力の中で、恐らくはもっとも認識されている力の名前。
 その力を、彼女、紅美は持っていた。
 それも……信じがたいほどのものを。
「紅美だけじゃだめ?」
「そうみたいです。しょうがないですね……お願い」
 そう言うと、目を閉じ、精神を落ち着かせる。
 ……再び眼をあけたとき、その目つきは妖しく変わっていた。
 紅美のうちに眠る、もう1人の少女、紅魅くみだ。
 彼女たちは元々1人だったのだが、とある理由から分かれ、紅美は光の[魔法]の力に、紅魅は闇の[魔法]の力にそれぞれ覚醒。
 そして、最後には融合……相反する[魔力]、それも覚醒を果たした状態の[魔術師]同士の融合……それは彼女に膨大な[魔力]をもたらした。
 その彼女が、単身では入り込めないと判断するほどの力が、そのソフトには込められていたのだ。
 そのため、紅美は紅魅を呼び、2つの力を同時に使って介入することにしたのだ。
「……いくわよ」
 激しい力のこもった光がゲームソフトを包む。
 白く、黒く、点滅するように輝く光の塊は、やがてその中に吸い込まれていき……ソフトの上に、40インチ程度の鏡のような物を創り出す。
「な、なに、これ……」
「これが、紅美の使える力、[魔法]、です」
「[魔法]……?」
「見てしまったら、嘘、なんて言えないよね……凄い」
 そんな中、紅美がゆっくりと目を開く。
「3人とも……これが……今実際に起きていること……真実よ」




SoU「どうも、SoUです。修整版……新キャラ全員の説明を加えました。」
水羽「自分でも思うけど、キャラが立ってるわよね……キャラ作りの質がまるで違うわ」
SoU「否定不能。紫崎夜羽さんのところのオリジナルキャラなんだけど……凄いなやっぱり」
由依子「とりあえず、このお話、元ネタである夜羽さんの[My fairytale 〜勇気をくれた幻〜]のネタバレの塊なのですが……よろしかったのでしょうか?」
SoU「…………(滝汗」
恭平「まったく……少しは後先を考えたほうがいいと思うけどなぁ」
次回予告
 紅美と雄也が見せてくれたもの……それは実際にはとても考えられないこと。
 が、ありえないと信じていた[魔法]を見せられた今、見ている映像を否定することは出来なかった。
 そしてそれを目の前に、3人は驚きを隠せない。

水羽「どうして、こんなことが……?」

 構築された不思議な世界……紅美の力では、ほんのわずかに介入し、中に誰かを送り込むことが精一杯。
 その力で中から人を連れ戻すことは出来ないという。
 2人の生きた人間が中にいるという事実……外からの助けでは戻れないという事実……その2つが、3人を葛藤させる。

第06話 突入Dive




水羽「私……決めたわ」







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