アトムの時代



西暦2000年を迎えた。
ミレニアムだのの馬鹿騒ぎには辟易するものがある。西暦といものは世界にたくさんある暦の内のひとつに過ぎない。
1秒の次は次の1秒、昨日の次には今日が来る。その淡々としたつながりそのものに区切りをつけているのはとても人工的な事なんだ。でも便利だからね。ここでその事についてぐだぐだ言うのはやめよう。今日のテーマと趣旨が違う。
文の当初から話しがずれてどうする。話しを始めよう。

西暦2000年を迎えた。
知ってる人がいるだろうか。西暦2003年に天馬博士によってアトムが生まれるのだ。鉄腕アトムの誕生だ。あと3年である。
現在、新型マンションでのユニットバスではボタンひとつで設定した量・温度でお湯が張られる。時間予約もOK。で、女性の声で(!) 「お風呂がたき上がりました。」とささやいてくれると言う・・・馬鹿?そう言えば炊飯器や電子レンジでは当たり前かぁ。

先頃ラスベガスで家電関連機器の国際見本市が開かれた。
ここには、何時頃どれくらいコーヒーを湧かせばいいかちゃんと知っているコーヒーポットや、牛乳の賞味期限がきれそうになるとオンラインで食料品店に注文してくれる冷蔵庫等が出品された。

これらの生活はかつての夢の未来快適生活。あと3年もすればそうした生活をする人が増えてくる時代らしい。

いよいよSFチックな未来生活が始まるらしい。アトムの時代到来だ。

でもちょっと待て!と思わないか?!
僕らの望んでる未来はこういう未来だったのか?
否応なくやってくるデジタルな生活。
「お風呂がたきあがりました。」「コーヒーが湧きましたよ。」嬉しいか?デジタルな声でそう言われて嬉しいか?
僕らの未来は、そんな味気ないものなのか?

今日の夕刊(北海道新聞2000年1月26日付け)の見出しにちょっと笑ってしまった。
「科学技術庁のホームページに再びハッカー侵入」という記事と「心の隙間に『神のお告げ』〜加江田塾事件〜」が並んでいるのだ。あのミイラが出てきた新興宗教の記事だ。

科学技術庁と言ったらアトムの育ての親のお茶の水博士の所属する機関だぞ。ハッカーに手を焼くなよ。あと3年でアトムが生まれるというのに。
デジタルな生活到来と世間が騒いでいる時期にこの手の希薄な人間関係が原因と思われる新興宗教系の訳の判らない事件が起きる。
このふたつの事件はまったく違う世界観を持ちながら、やはり2000年以後のこれからの僕らの未来を予測する事件なんだろうと思う。

これから到来するアトムの時代。
アトムは人間のロボット差別に傷つきながら、それでも人間を信じた。
僕らも人間を人間の未来を信じて良いのか?
デジタルな声に囲まれる事を良いと思う感性を間違っていると言い切れる、せめてそういう感性を保ちたいんだ。

デジタルな未来は、希薄な人間関係を増長する方向ではなく、人間を信じることが出来る未来を、そういうアトムな時代をと信じたいんだ。



( TOYOTAのCMより引用 )
「電子メールがあれば会わなくてもいいの?」
「そうはいかないのが、人間の素敵なとこなの」




蟹屋 山猫屋