お風呂免許習得物語
<其の17>

〜〜帰りの電車の中〜〜

【み・弟子】
「何を思い詰めたような顔を。」

【Q修行者】
「熊がね。」

【み・弟子】
「好きですか?」

【Q修行者】
「・・・。」

【み・弟子】
「そうかぁ。熊が好きになっちゃったんだぁ。名人、万物は等しく天の下にあるって いうのは判るけど、相手は、せめて人間にして下さいよ。」

【Q修行者】
「なんで!俺が熊を好きにならなくちゃならないんだ!俺は、マキさんが・・ごにょ ごにょ。じゃなくて、宿の親父さんが熊に対して完璧な応急処置をしていた。その技 術。完成度。しかもそれを熊に。」

【み・弟子】
「鮮やかでしたねぇ。まぁ、宿の親父さんは職業柄そういう状況は、よくあるから。 まぁ、プロでしょうし。」

【Q修行者】
「まず、心構えが違う。俺は、判ったような気がしてただけで、やはり人と熊の命の 重さを区別していた。熊を軽んじていたし、たぶんあの状況であれ程完璧な、処置は 出来なかったと思う。」

【み・弟子】
「ふぅん。それじゃ、熊を好きになったという訳ではないんですね。」

【Q修行者】
「もし、あの技術が、昔の俺にあったら師匠は助かってたかもしれないと思ったん だ。」

【み・弟子】
「師匠? あぁ、名人のお師匠様ですね。小さいときからお風呂の技術を仕込んで 貰ったという。」

【Q修行者】
「あの時の師匠と熊の症状がそっくりだったんだ。師匠は亡くなり、熊は元気になっ た。」

【み・弟子】
「やっぱりそんなに熊の事が忘れられませんか? う〜ん。熊がいいですか。せめて 相手は人間にして欲しいと思ったんですけど。名人が熊を選ぶというなら、そんな名 人でも私はついていきますよ。なぁに、世間の目なんか気にすることはありません。 愛があれば種の違いなど。」

【Q修行者】
「お前は、さっきから何を言ってるんだ?酔っぱらっているのか?」


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