お風呂免許習得物語
<其の5>

【Q名人】
「まぁ。そうだな。来月のお風呂1級に受からなければならない身だし な。それでは、今日は私がお風呂の道を目指すきっかけになった話をしてやろう。」

【み・住み込み見習い】
「はい。」

【Q名人】
「俺は、小さい頃からお風呂の素質があると言われててなぁ。もしかしたら1級ま で行ける素材じゃないかって田舎で評判で。
ある時、近所に当時のお風呂特1級保持者の偉大な人が来てな。親父が俺をその人の宿に連れて行ったんだ。
小学校の3年の時だ。師匠は俺の素質を見てかわいがって下さって、俺は、夏休みや冬休みなどの学校の休みの日には、 師匠の家に住み込んで、いろいろ教わったんだ。 師匠から得たものは多い。いろんな思い出があるなぁ。」

【み・住み込み見習い】
「厳しかったんですか?」

【Q名人】
「厳しいって言うこともあったけど、それより良い思い出の方が多いなぁ。いろいろな温泉にも連れていったくれたし。
ある時、師匠がお風呂で倒れてしまったんだ。俺が応急処置をして救急車を手配して・・・・。」

【み・住み込み見習い】
「で?それで?」

【Q名人】
「病院へ付き添ったが結局、3日後に亡くなってしまったんだ。最期の言葉は俺への期待の言葉だったんだ。
『お前の活躍を見たかった。必ずお風呂の天下を取れ。』 と、言って亡くなったんだ・・・。」

【み・住み込み見習い】
「しくしく」
(もらい泣きモード)

【Q名人】
「よし。俺も頑張らねばな。しかし、heavy metalの魅力も捨てがたいが、しばらくは我慢するか。 ところでお前の10級の試験はいつだったかな。」

【み・住み込み見習い】
「Q名人と同じ来月です。10級は午前中。1級は夕方からでしたね。」

【Q名人】
「夕方から翌日の朝までだ。」

【魅・住み込み見習い】
「ハードな試験ですね。」

【Q名人】
「お前、10級受からなければ、俺が恥ずかしいんだからな。俺に恥をかかすな。」

【み・住み込み見習い】
「はい。名人の恥になるような事には決して。」

【Q名人】
「わかってればよろしい。」

【み・住み込み見習い】
「名人。出来ました。」

【Q名人】
「はい。そこまで。それでは私が答案用紙をチェックしておこう。
今度は、実技の練習だ。」

【み・住み込み見習い】
「え? 名人が見るんですか?」

【Q名人】
「当たり前だろう。10級も実技はあったはずだ。簡単な風呂場での立ち振る舞い だったはずだが?」

【み・住み込み見習い】
「・・・。」
(もじもじ)

【Q名人】
「まさか、お前、恥ずかしいとかそういうレベルで渋ってるんじゃあるまいな。いい か、日本伝統のお風呂というのはな。お前も少し勉強したから判ると思うが、本来、 男風呂と女風呂には分かれていなかったのだ。それに本番では、審査員の目の前でお 風呂に入らなければならないんだぞ。」

【み・住み込み見習い】
「あの。名人は、最初恥ずかしいという感情はなかったんですか?」

【Q名人】
「俺は、10級を取った時は小学生だったからな。18の時に、4級挑戦。この時 は、ちょうど審査員のお風呂会長のお孫さんが見学に来ていて、可愛い子だったなぁ。 俺、一発合格でかっこいい所を見せようとして。でも、18という年齢は、自意識過剰の時期だったから、 緊張しちゃって、師匠に叱られた。可愛かったなぁ。あの子。」
(懐古モード)

【み・住み込み見習い】
「あのう・・。」

【Q名人】
「試験に行くたびに時々見かけるんだよな。今回も来るかな。俺、注目されてるか ら、そろそろ話しかけられるかも。いや、俺の方から話してみようかな。」
(まだ懐古モード)

【み・住み込み見習い】
「あのぅ、名人・・。」

【Q名人】
「ん? どうした? 実技みてやるぞ。」

【み・住み込み見習い】
「実技用のビデオがありましたよね。私にそれを貸して下さい。
ひとりで研究してみます。」

【Q名人】
「むっ。  その代わり落ちて俺に恥をかかすなよ。落ちたら直々に実技指導だぞ。 よし。行ってよし。」


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